『星の開拓』に引けを取らない、いえ、すべての偉業を上回る偉業。文明を発展させる一歩ではなく、文明そのものを守る神の一手。

プロローグ・特異点F 炎上汚染都市 冬木

オルガマリー「いいですか。

今日というこの日、我々カルデアは人類史において偉大な功績を残します。

学問の成り立ち。

宗教という発明。

航海技術の獲得。

情報伝達技術への着目。

宇宙開発への着手。

そんな数多くある『星の開拓』に引けを取らない、いえ、すべての偉業を上回る偉業。

文明を発展させる一歩ではなく、文明そのものを守る神の一手。

不安定な人類の歴史を安定させ、未来を確固たる決定事項に変革させる。

霊長類である人の理——

即ち、人理を継続させ、保証すること。

それがわたしたちカルデアの、そしてあなたたちの唯一にして絶対の目的です。

カルデアはこれまで多くの成果を出してきました。

過去を観測する電脳魔ラプラスの開発。

地球環境モデル カルデアスの投影。

近未来観測レンズ シバの完成。

英霊召喚システム フェイトの構築。

そして霊子演算機 トリスメギストスの起動。

これらの技術を基に、カルデアでは百年先までの人類史を観測してきました。

未来予測ではなく、未来観測です。

天体を観るようにカルデアは未来を見守ってきました。

その内容がどのようなものであれ、人類史は百年先まで続いている、という保証をし続けてきたのです。

頭上を見なさい。

これがカルデアが誇る最大の功績——

高度な魔術理論によって作られた地球環境モデル、わたしのカルデアスです。

これは惑星に魂があると定義し、その魂を複写して作られた極小の地球です。

我々とは異なる位相にあるため、人間の知覚・知識では細やかな状況は読み取れません。

ですが表層にあるもの、大陸に見られる都市の光だけは専用の観測レンズ・シバによって読み取れます。

現在はその状態を百年先に設定しています。

このカルデアスは未来の地球と同義なのです。

カルデアスに文明の光が灯っているかぎり人類史は百年先の未来まで約束されています。

だって光があるかぎり、都市には人間が暮らし、文明が継続している事を証明しているのですから。

ですが——

レフ、レンズ(シバ)の偏光角度を正常に戻して。

現状は見ての通りです。

半年前からカルデアスは変色し、未来の観測は困難になりました。

今まで観測の寄る辺になっていた文明の明かり。

その大部分が不可視状態になってしまったのです。

ふん、いい反応ね。

少しは頭の回る子がいて助かるわ。

そう。

明かりがないという事は文明が途絶えたという事よ。

これは極秘事項として秘されていた事ですが、あなたたちには知る権利があります。

観測の結果、地球に人類の明かりが確認できるのは2016年まで——

つまり人類は2016年をもって絶滅する事が観測、いえ、証明されてしまったのよ。

言うまでもなく、こんな未来はあり得ません。

あってはならないものだし、物理的に不可能です。

経済崩壊でも地殻変動でもない。

ある日突然、人類史が途絶えるなんて説明がつきません。

わたしたちはこの半年間、この異常現象——

未来消失の原因を究明しました。

現在に理由がないのなら、その原因は過去にある。

我々はラプラスとトリスメギストスを用い、過去2000年まで情報を洗い出しました。

今までの歴史になかったもの。

今までの地球に存在しなかった異物を発見する試みです。

その結果、ついに我々は新たな異変を観測しました。

それがここ——

空間特異点F。

西暦2004年、日本のある地方都市です。

ここに、2015年までの歴史には存在しなかった、“観測できない領域”が発見されたのです。

カルデアはこれを人類絶滅の原因と仮定し、霊子転移(レイシフト)実験を国連に提案、承認されました。

霊子転移とは人間を霊子化させて過去に送りこみ、事象に介入する行為です。

端的に言えば過去への時間旅行ですが、これは誰にでも可能な事ではありません。

優れた魔術回路を持ち、マスター適性のある人間にしかできない旅路です。

さて——

ここまで説明すれば分かるでしょう。

あなたたちの役割はこの特異点Fの調査。

今から12年前の過去の日本に転移し、未来消失の原因を究明、これを破壊する。

この作戦はこれまで例のないものです。

何が待っているかは予測できません。

ですが、世界各国から選抜されたあなたたちなら十分に可能だろう、と多大な期待が寄せられています。

上層部は一刻も早い原因究明を求めています。

無駄に使う時間はありません。

これより一時間後、初のレイシフト実験を行います。

仮想訓練はもう十分でしょう。

第一段階として成績上位者8名をAチームとし、特異点Fに送りこみます。

後発組には伝えてありませんが、彼らはカルデアから選抜されたマスター適性者です。

Aチームは一ヶ月前からチームとして機能しています。

一人前の兵士、と言ってもいいでしょう。

彼等Aチームが先行し、特異点Fにてベースキャンプを築き、後に続くあなたたちの安全を保証する。

Bチーム以下は彼等の状況をモニターし、第二実験以降の出番に備えなさい。

では人間を霊子に変換し過去に転写する量子の筺……

クラインコフィンの個人登録に移ります。

あれは一人一基のものですから換えはききません。

各自、慎重に、丁寧に扱うように。

BからDチームは登録が済み次第、コフィン内にて待機。

Aチームに問題が発生した場合に備えます。

——何をしているの。

やるべき事は説明したでしょう。

マスター適性者として招集に応じた以上、あなたたちはもう軍人のようなものなのよ。

命令には従う。

どんな時でも戦いに順応する。

いちいち言わせないで、こんなこと。

それとも、まだ質問があるの?

ほら、そこの君!

君よ、遅刻した君!

特別に質問を許してあげます。

首をかしげているけど、何が不満なの?」

「タイムスリップなんて可能なんだろうか……?

過去を変革して問題はないのだろうか……?」

オルガマリー「…………。

あなたね。

特異点、と聞いてわからないの?

今回発見された特異点は、これまでの観測記録にはなかったものなの。

ようは突然現れた穴と同じってコト。

穴自体が正常な時間軸から切り離されているのよ。

2004年の特異点は過去と未来から独立している。

前後の辻褄を合わせる必要はないの。

通常の時間旅行より安定してシフトできるし、どのように改変を行っても時間の復元力で影響はないわ。

この特異点Fは人類史というドレスに染みついた、小さな汚れのようなものよ。

あるだけで美しさを損なう毒。

あなたたちはこの毒を摘出するだけでいいの。

それで人類史はもとの、以前から観測されていた正しいカタチに戻るんだから。

……まったく。

こんな初歩の時空論も知らない人間をよこすなんて、協会は何を考えているのかしら。

この作戦は冠位指定、魔術世界において最大級の義務と同じなんだって進言したのに……

まあいいわ。

君はどこのチーム……

……ちょっと。ID、見せて。

なにこれ、配属が違うじゃない!

一般協力者の、しかも実践経験も仮想訓練もなし!?

わたしのカルデアを馬鹿にしないで!

あなたみたいな素人を入れる枠なんてどこにもないわ!

レフ!

レフ・ライノール!」

レフ「ここにいますよ所長。

どうしました、そんな声高に。

なにか問題でも?」

オルガマリー「問題だらけよ、いつも!

いいからこの新人を一秒でも早くわたしの前からたたき出して!」

レフ「あー……そういうコトですか。

ですが所長、彼も選ばれたマスター候補です。

確かに他に比べて経験はないのでしょうけど、そこまで邪険に扱うこと自体が問題というか……」

オルガマリー「なんの経験もない素人を投入するコト自体が問題よ!

わたしのカルデアスに何かあったらどうするの!?

いいからロマニにでも預けてきて!

せめて最低限の訓練を済ませてきなさい!」

レフ「……むう。

これは嫌われたものだね。

仕方ない、とりあえず命令には従うか。

マシュ、藤丸君を個室に案内してあげてくれ。」

マシュ「了解です、お話は聞いていました。

先輩を個室までご案内すればいいのですね?」

レフ「すまないね。

私はレイシフトの準備があって同行できないんだ。

なに、今回の実験は二時間ほどで終わる。

その後に部屋を訪ねさせてもらうよ。」

「ありがとうございます。」

レフ「なに、礼には及ばないさ。

君は本当に運が良いからね。」