魔術王にとって人理焼却はもう終わった仕事…… だからわたしたちに関心がない、と?

第六特異点 神聖円卓領域 キャメロット

ホームズ「特に今は一つの謎と格闘(バリツ)中だった。

人理焼却事件の犯人——

魔術王の正体とね。

なにしろ彼にはまったく情報がない。

時代の端々に彼の痕跡はあるものの、どうしてもそれがソロモン王に結びつかない。

直接魔術王の姿を見た者がいればソロモン王と一致するか照会できるのだろうが、そんな都合のいい目撃者がいる筈もない。

最後まで情報だけで推理を進めるしかないだろう。」

「えっと……見てます、魔術王」

ホームズ「!

キミは重要な参考人でもあったのか!

では是非話してほしい!

彼の姿は?

声質は?

魔術系統は?

そして何より——

……何より、だ。

キミが直接感じた印象を知りたい。

違和感。

そう、違和感だ。

この場合、違和感こそが重要なキーになる。

よく思い出してほしい。

どんな些細な事でもいい。

魔術王には、何かおかしな所はなかっただろうか?」

「……姿は覚えていますけど………そういえば、どこか……」

ホームズ「どこか、なにかね?」

「……外見で、一つだけ………何か、足りなかったような……」

ホームズ「……何か足りない……

何か足りない、か。

魔術王を初めて見た人間がそう感じるという事は……

それは意図しないまでも、無意識のうちに“おや?”と思う些細な落ち度があったという事だ。

……ミス・キリエライト。

すまないが、道すがらスケッチを依頼しても?

キミたちが見た魔術王の姿を絵にしてほしい。

本来ならそれだけで呪いを受けるだろうが、ここはアトラス院、外部からの呪いへの対策は完璧だろう。

キミたちに実害はない。」

マシュ「了解しました。

得意ではありませんが、わたしたちが見たフォルムをペーパーに出力します。

それと……

わたしからも発言、よろしいでしょうかミスター・ホームズ。

先輩のように見た目の違和感ではありませんが……

わたしたちが出会った魔術王は言動が安定していませんでした。

わたしの感じた違和感はそこです。

彼は乱暴であり、また冷静であり、時にこちらに無関心でした。

……わたしには、それがすべて唐突なものに見えてしまって……」

マシュ「ふむ。

詳しく話してくれたまえ。

キミたちは彼とどんな会話をしたのかな?

——そういう事か。

ありがとう、ミス・キリエライト。

実に有益な情報だった。

魔術王の正体に小指がかかる、程度にはね。」

マシュ「ど、どうも……

こちらこそ光栄です。」

ホームズ「キミたちの会話から推測するに、魔術王は“鏡”のような性質なのだろう。」

マシュ「鏡、ですか……?」

ホームズ「そうだ。

前に立った者を映す鏡。

語りかけた者と同じ性質を示す鏡。

乱暴なものが語りかければ、彼は粗野に応え——

賢明なる者が語りかければ、彼は真摯に応える。

残忍な者は彼を残忍な者と捉え、穏やかな者は彼を穏やかな者と捉える。

自分がない、という事ではないだろう。

多重人格とも違う。

おそらく、魔術王は属性を複数持っている。

いや、持ちすぎている。

そういう性質のようだ。」

「そうか、モードレッドが乱暴だったから……」

マシュ「ですが、彼はわたしたちに関心がないと言いました。

生命には価値がないとも。

あの場にいた人に、そんな考えを持つ人はいなかった筈です。」

ホームズ「…………そこだよ。

私が怖ろしいのはそこなんだ、ミス・キリエライト。

“人間に関心がない”

それは魔術王にとって真実の一つだろう。

何故なら、彼は既に人類を滅ぼしている。

今この時代を消滅させようとする獅子王とは違う。

彼はもう勝利している。

勝利したからこそ姿を現した。

我々に関心がないのも当然だ。

彼はもう次の仕事に移っているのだから。

例えば、ここに作業机があるとしよう。

デスクの上には『人理焼却』という案件がある。

彼はその仕事をとっくに終わらせて、次の作業机に座っている状態だ。

本来ならそれで終わり。

人類には『彼と戦う』という選択肢すらなかった筈だ。

だが、ここに一つの奇蹟が起きた。

言うまでもなく、キミたちカルデアだ。

無人の作業机の上に残った、わずかな空白にすぎないがね。」

マシュ「……魔術王にとって人理焼却はもう終わった仕事……

だからわたしたちに関心がない、と?」

ホームズ「ああ。

正しくは“次の仕事が忙しい”だろう。

私が怖ろしいのはその“次の仕事”とは何なのか、という事さ。

いいかね、諸君。

この事件は完全犯罪と言われるものだ。

計画を未然に防ぐ事は誰にもできなかった。

私たちは完全に後手に回された。

探偵は事件が起きた後——

被害者が出てから活動するものだ。

事件の真相を明かす事はできても、これを覆す事はできない。

だがキミは違う、ミスター藤丸。

キミたちだけはこの事件を覆せる。

魔術王はそれを信じていない。

それがこの悪魔の犯罪を打倒する、唯一の隙だろう。」