本来死ぬべきであった五百人もの命を救った。それは誇ってよい事だ。決して無駄な事ではない。

第七特異点 絶対魔獣戦線 バビロニア

ギル「少しはマシな顔色になったな。

その様子であれば明日はいっそう酷使できるというもの。

それで、今夜はなんだ?

殊勝にも最後の挨拶に来たか?」

「最後にはなりませんよ」

ギル「フッ、言うではないか。

これは我も一本取られたな。

……………………しかし。

ふうむ。」

マシュ「ギルガメッシュ王?

無言で観測されているようですが、何か?」

ギル「なに。

まったく変わらんと思ってな。

ウルクで一ヶ月過ごした男にしては、貧相だ。

これではカルデアに帰った後、みなに伝える土産話も眉唾というものよ。

エビフ山の女神詐欺、密林の大決闘、冥界下り、ゴルゴーン討伐にティアマト神との邂逅……

それも酒の席には十分な話だというのにな。

まったく惜しい。」

フォウ「フォウ、フォー!」

ギル「まあよい。

ウルクの土産話をどうするかは、何か考えておこう。

それで、なんだ?

よもや本当に挨拶に来ただけか?」

「…………」

ギル「阿呆め。

雑種なりに責任を感じているようだな。

『ウルクは滅びた。多くの市民が死んだ。すべてはティアマト神を解放した自分のせいだ』、か?

愚か者、そのような慙愧、千年早いわ。

そも、思い違いも甚だしい。

マシュ。

貴様は生き残ったシュメルの民を、たった五百人だと言ったな。

それは違う。

たった、ではない。

五百人も残った、が正しい。

なにしろ、以前我の視た“今”は違った。

この局面において、ウルクに残ったのは我ひとりだった。

それがどうだ。

確かに終焉は変わらぬ。

ウルクの滅亡はもう変えられぬ。

だが、五百人もの命が残った。

たとえ明日には全て死に絶えるとしても——

最後のこの地点に、それだけの人間が残ったのだ。

我は、それを偉業と考える。

今なお死の運命と戦う者たちの価値を認める。

この時代の到達点を、あの者たちは越えたのだからな。」

フォウ「…………。」

マシュ「……ギルガメッシュ王。

貴方はやはり、知っていたのですね。

この結末を。

ウルクが滅びる事実を知っていた。

その上で、これまで戦ってきたのですか?」

ギル「……そうだ。

魔術王めが聖杯をこの時代に送り、ティアマト神が虚数世界より引き出された。

その時点で我は未来を視(し)り、民たちに伝えた。

“ウルクは半年の後に滅びる。

これは変えられぬ結末だ”と。

その後の事は語るまでもない。

ウルクの全てを、貴様たちは見てきたのだから。」

「ウルクの人たちは、知っていて——」

マシュ「それでも、戦っていたんですね。

最後の日まで、全力で生き延びようと。」

ギル「そうだ。

よく微笑んだマシュ・キリエライト。

ここで憐れみなど浮かべようものなら、引導を渡していたところよ。」

マシュ「は、はい!

不敬でした、申し訳ありません、王!」

ギル「畏まる必要はない。

まったく、どこまでも奥ゆかしい娘よな。

藤丸よ。

我はな、女神たちは倒さずともよいと思っていた。

アレらを倒したところでティアマト神は現れる。

三女神どもは共に自滅するという確信もあった。

だが貴様たちはウルクの民を助け、この地を愛しみ、女神どもとの対決を選んだ。

それがこの結末を招いたのだ。

本来死ぬべきであった五百人もの命を救った。

それは誇ってよい事だ。

決して、無駄な事ではない。」