心の中に巣食っていた黒い影…。全く異なる思考系統、優先順位、道徳倫理を保有し、内側から助言する裏人格。

幕間の物語(男性鯖)

——私を見るな。私を見るな。私を見るな。

——私の心には、“黒(クリシュナ)”が棲んでいる。

邪悪な囁き。

私を扇動し、先導し、全ての罪を負わせるもの。

……何て酷い言い訳だろう。

浅ましい、恥ずかしい、おぞましい、見られたくない……。

ああ、だが。

邪悪であることは、羨ましい。

アルジュナ「……なるほど、あれが私か。」

カルナ「玉座に座り、嘲弄の笑みを零す。

戦士としての路を外れることを恐れもしない。

それこそが、“黒”。

アルジュナ、おまえの抱える闇そのもの……そうか?」

アルジュナ「ああ、そうだな。

我ながら、何て醜い——。」

何て羨ましい——。

あれこそは、人間そのもの。

醜くも足掻き続ける。

勇ましくも怯え続ける。

泣きながら死にたくないと喚き、喚きながら命を賭して、誰かを無我夢中で救う。

そうなりたいと、そうあるべきだと。

自分の中の、何かが訴えている。

「クリシュナ……?」

カルナ「そうだ、クリシュナ。

ヴィシュヌ神の化身(アヴァター)であり、マハーバーラタにおいて、アルジュナの味方についた男。

彼は間違いなく存在した。

オレたちの軍を翻弄した大英雄の1人だ。

アルジュナの戦車を引く御者を務めていた、とも。

……だが、それとは知られない、もう一人のクリシュナが、此処に巣食っていた。」

アルジュナ「クリシュナ!

我が友の名を冠する私よ!」

クリシュナ「アルジュナのご帰還か。

否、あるいは遠征か?

闇を打ち払い、光を求めて此処に来たのか?」

アルジュナ「その通りだ!」

クリシュナ「度し難いな、我が友よ!

“輝く王冠(キリーティ)”とすら呼ばれた私が救われるのは、最奥の暗黒だけ。

——何て皮肉。何て無様。

強くなり、絆を結べば結ぶほどに——

私は、どうしようもなく。

結んだ相手を殺さねばならなくなる。

となればほら、そこに殺すべき相手が2人いるな?」

アルジュナ「それは……。」

「アルジュナ」

アルジュナ「私を、見ないでください!

私は英雄だ。英雄なんだ。

違う。これは私ではない!

私は、正しい英雄であらねばならない。

だから、この“私”は隠し通さねばならない。

それがマスターであるならば尚更だ!」

クリシュナ「……今、何と言った?」

アルジュナ「マスター……!?」

「それがどうした! 悪心なんて誰にだってある!」

アルジュナ「しかし……しかし、私は!

私は恵まれて育てられた!

善を尊び、悪を憎み、戦士として誇り高く生きてきた!

このような悪心が、存在することが有り得ない

いや……あってはならないはずなんだ!」

クリシュナ「その通りだ、アルジュナ!

私の、この顔を見た者に例外はない。

誰であれ、何であれ、殺さなくてはならない。

そうでなければ、私は英雄でいられない。

私が英雄であるために、必要な殺人だ……!」

カルナ「いつもより騒々しいな、クリシュナ。

焦っているのだろう、かつて第三者がここまで入り込んできたことはなかったからな。

ラーマは人生に立ち塞がる様々な象徴として。

オレはアルジュナの敵対者の象徴として。

そしてクリシュナ、おまえはアルジュナの味方……

同時に悪の象徴として、ここに在る。

幼い頃から心の中に巣食っていた黒い影……。

全く異なる思考系統、優先順位、道徳倫理を保有し、内側から助言する裏人格。

そう、オレも含めて我らは全てアルジュナの記憶から構成された素体(じんかく)に過ぎない。

ただ一人、マスターだけが異なる。

彼はただ、アルジュナを心配して呼び出しに応じただけだ。」

アルジュナ「……な……心配……?」

カルナ「アルジュナ。

我らは結局共に戦車を走らせることも、武器を取り合うこともなかった。

それ故に、オレは永遠におまえと敵対しあうものだと思っていた。

しかし、それは変わった。

変化したのだ。

あのアメリカで、確かにおまえはオレの気持ちを理解した……しかけているのだ。」

アルジュナ「私、は——。」

クリシュナ「黙れ……黙れ、黙れ、黙れ!

恥を知れ、カルナ!

俺と同じように、貴様も邪悪そのもの。

それ故に討ち滅ぼされたのだ……!!」

カルナ「手を貸して欲しい、マスター。

アルジュナと、おまえで……。

ひとまず、“黒”を黙らせるぞ。

説得はそれからだ……!!」