僕が最後まで得られなかったもの。そうなるべきだったかもしれないものに、キングゥは辿り着いた。

幕間の物語(男性鯖)

イシュタル「黙りなさいポンコツ。

まったく、私からすればキングゥの方がまだ女神への敬意があったと思うわ。」

エルキドゥ「キングゥ……。

この特異点の中で、僕の身体に宿っていた魂の名前だね。

もし良ければ、マスターやマシュの口から聞かせてはくれないかい。

キングゥと名乗ったエルキドゥ(僕)の遺体が、この世界で何を成し、何を語り、何を遺したのかを。」

「最後を看取ったわけじゃないけれど……」

エルキドゥ「ああ、構わないよ、君の知っている部分だけでいい。」

マシュ「わたしたちが知るのは、本当にキングゥさんの一部だけです。

ただの敵対者と割り切るには、最後の行動が……。

いえ、やはり推測で語るには材料が足りなすぎます。

そんな話、身体の持ち主であるエルキドゥさんには……」

メフィスト「ヒハッ。

構わないんじゃありませんか、マスター?

どうせ他人が誰かを語る中に純然なものなどなく、世に遍く英雄譚もまやかしに過ぎませんが故に?

ここであなたがキングゥ殿をどう語ろうと?

全てはペテン、世は全て事もなし、的な?」

ナーサリー「ひどいわひどいわ!

メフィストおじ様!

物語はそんな悲しいものばかりではないのだわ!

誰かの物語は、別の誰かがお話しした時に、あたらしい『ほんとうのこと』になるの。

マスター、エルキドゥは、あなたから見たキングゥの『物語』が聞きたいのだわ。話してあげてほしいの!」

マシュ「物語……ですか?」

モリアーティ「ふぅむ。

差し出がましいようだが、私だけ無口でしたり顔というのも、どこぞの探偵のようで気分は良くないネ。

マスター。話してあげたまえ。

私達には、なんとなくだがエルキドゥ嬢(君)が何を求めているのか理解できる。

何か脚色しろというわけじゃない。

君達から見たキングゥという存在のありのままを語るといい。

まあ正直、私もここでどんな顛末があったのか一抹の興味はあるのだがね。後学のために。」

マシュ「……本当に良いのでしょうか。」

イシュタル「……。私は特に口を出す事じゃないわ。

まあ、聞かれれば補足ぐらいはするけれど。

そもそもこのポンコツには心が欠けてるもの。

自分の体がどんな奴に使われてようとすんなり受け入れるわよ。」

エルキドゥ「……彼女にだけは『心が欠けている』なんて言われたくなかったけれど、確かにその粗忽な女神の言う通りだね。

僕の事は気にしなくていい。

ただ、語りたい事だけ聞かせてくれれば充分だよ。」

「じゃあ、見て聞いた事だけでも……」

マシュ「はい、先輩がそう仰るなら、わたしからも……。

キングゥさんとわたしたちとの関係は複雑でして……。

最初はエルキドゥさん本人であるかのように装って、この土地を散策する我々の前に現れました。

実は三女神同盟の使いだと敵に回りましたが、本質的にはティアマト神を母なる女神として崇めていたようです。」

エルキドゥ「……ティアマトを。」

マシュ「ええ、ですが、最後のウルクでの攻防の時に——」

エルキドゥ「……そうか。

キングゥと名乗った僕の身体は、最後には母と崇める女神(獣)……ティアマトを止めようとしたんだね。」

イシュタル「アイツの心に何があったのかまでは、私にも解らないわ。

あんたのお友達なら、もっと何か知ってるんでしょうけど。

ただ、あんたの身体の本質である『鎖』と『楔』がウルクを救う要素の一欠片になったのは確かよ。」

エルキドゥ「……。

そうか……キングゥは……この特異点の『僕』は、最後まで自分の想うままに生き抜いたんだね。」

「『この特異点の僕』って?」

エルキドゥ「ああ、すまない。

僕はキングゥではないのに、おかしな事を言ったかな。

彼の魂を侮辱するわけじゃない。

僕が上位存在だと言うわけでもない。

ただ、僕は……僕の肉体は、そういう風に造られたんだ。

僕の人格の全ては、身体そのものに刻まれるものだと。

例え死体に別の魂が宿っていたとしても、それは神々が造りし肉体が歩んだ『道』として世界の中に刻まれる。」

マシュ「道……ですか?」

エルキドゥ「そうだね、『道』……あるいは『回路』だよ。

元々、僕には人格はなかった。

ウトゥ達に造られた、完全なる存在になるための素体。

君達の言葉で言えば、ソフトウェアを入れる前のパソコンやタブレットの機械だけの存在だったんだ。

そのまっさらな素体に、古い同朋やシャムハト、そしてギルが人間らしさを刻んだ結果が、今の僕なんだ。」

イシュタル「……。」

エルキドゥ「つまり、いま君たちと話しているこの僕は、その時生まれたソフトウェアにすぎない。

世界にとって……僕を造った神々にとって重要なのは、そのシステムを動かすハードウェアの方だった。」

ダヴィンチ「妙な事を言うね。

それじゃキミは、座に登録されたのは魂ではなく、肉体の方だとでも言うつもりかい?」

エルキドゥ「そうだね。

それが一番しっくり来る答えかな。

正確には、座には僕の歩んだ道というよりも……エルキドゥというシステムが登録された形だね。

だからこそ、僕はキングゥを尊敬する。」

マシュ「尊敬……ですか?」

エルキドゥ「キングゥの歩んだ道は、僕と違って確かに『人間』であり、賞賛されるべきものだ。

キングゥは、母と崇める者の望み通り、新たな人間となってこの世界を生き抜いたんだろう。

その結果として……彼は神々に使われる人形ではなく、自分の意志を優先する『新しい人』になった。

このシュメルの人々と同じように。

“意志のない生命”から“意志を持つもの”になった。

その上で、彼は自らの活動時間を使いきった。

母と崇めた女神に、自らに生まれた気持ちだけで立ち向かった。

僕が最後まで得られなかったもの。

そうなるべきだったかもしれないものに、キングゥは辿り着いた。

羨ましいと思うべきなのかもしれない。

あるいは、自分がそうならなかった事に安堵すべきかもしれない。

僕はただのシステムであるべきだ。

人間として生きる事は、それを裏切る行為になる。」

「エルキドゥはちゃんとした人格があるよ」

エルキドゥ「ありがとう。

でも、それは見せかけかもしれない。

ただ、人間らしく見えるように受け答えるだけのプログラムかもしれないよ?」

イシュタル「まーたもっともらしい事を言って自分を誤魔化す。

だから私、あんたのこと嫌いなのよ。

あんたはポンコツよ。

いい感じで壊れてたのよ。

人格なんて持っちゃったんだから。

ふっ、なーにが完全なカタチ、よ。

笑わせるわ、完全なのは私だけで充分って話ね!

まあ、でも——

だからこそ、あんたは後悔したんじゃない。

あの偏屈な王を一人残して先に死ぬ事をね。

いえ、アイツの孤高さとやらを穢した自分の所業の方を後悔したんだったかしら?

どちらにせよ、あんたは後悔と共に死んだ。

結局は人の感情に溺れて藻掻いた末路を受け入れなさい。」

エルキドゥ「他の神々に頼ってまで僕に呪いをかけた君がそれを言うのかい? 女神イシュタル。」

イシュタル「ええ、何度だって言うし、必要とあれば私はまた同じ事をあんたにやるわ。

そこは譲れない一欠片だもの。」