アルゴー船はこんな奴まで乗せているのか! では呪われて当然だ! よ……よくも、この私の前に顔を出せたな!テセウス!

幕間の物語(女性鯖)

キルケー「ゼウス神の怒りが治まったとしても、依然、アルゴー号は呪われている。

この先も、悪天候と座礁から逃れることは決して出来ないだろう。

もう船体はボロボロじゃないか。

これまでに何度難破しかけた?

いい加減に修理はあきらめて、船は捨てるんだな。」

イアソン「な——馬鹿を言うな。

そういうわけにいくか!

アルゴー号だぞ! オレの船だ!

わが故郷テッサリアへと導いてくれるオレの船だ!」

???「——まあ落ち着け、イアソン。」

マシュ「……? あの男性は……?」

「(精悍な出で立ちの若い男性が現れた……。人間……いやそれとも半身? 誰だ?)」

???「このまま大がかりな補修を続ければ、やがては船の全部品が入れ替わってしまうぞ。

それは、君が愛した本来のアルゴー号だと果たして言えるのだろうか?」

イアソン「当たり前だ。

オレが生涯を共にするにふさわしい唯一の船だ。

たとえ木っ端の一片に砕けようとも、決してオレはあの船を手放さんぞ。」

???「さすがだね。

海に生きる英雄ならば、そういう生き方もあるだろうけど……。

——さて、キルケーよ。

アイアイエー島の主人たる美神よ。

月神の叡智と加護を授けし慈愛の神よ。

初にお目にかかる。

挨拶を申し遅れました。」

キルケー「ほう……?

女神への正式な作法で跪拝の礼を受けたのは久方ぶりだ。ふふ。

何者なんだ、そいつ?

いや……待てよ……

そのイオニアの血の濃い風貌、南方の海の民らしい言葉遣い……

高価な旅装束(ヒマティオン)の染め模様は王族にのみ許されたものだ……!

知って……いるぞ。

きみの名には心当たりがある……。

貴様……アテナイ王か!」

???「——そうです。

ご存知だったとは光栄だ。

今はイアソンを友とする、アルゴノーツの一員だが。」

キルケー「アルゴー船はこんな奴まで乗せているのか!

では呪われて当然だ!

よ……よくも、この私の前に顔を出せたな!

——テセウス!」

マシュ「英雄……テセウス……!

……若きアテナイの王……!」

「彼も最初からアルゴー号に乗り込んでいた?」

マシュ「そ、そのはずです。

テセウスさんは……

クレタ島の大迷宮に挑み、牛頭の怪物ミノタウロス……を退治した英雄です。」

キルケー「英雄……か。そうかもな。

テセウスは我が妹パーシパエーの不品行に一つの決着をつけた。

迷宮から脱出した後は、我が姪を——

我が妹(パーシパエー)の忘れ形見、王女アリアドネを娶ったのではなかったのか。

なのに、その後、姪の噂話はぱたりと聞かなくなった。

代わりに、アテナイ王が新たな妃を王宮に迎えたとは耳にしたがな。

……なぜなんだ、テセウス。

王妃としてあの娘では不服だったのか。」

テセウス「…………アリアドネ——

彼女のことは今も愛している。

深く感謝もしている。

だがね、アリアドネはどうやら嫡子を産む意思が無かったんだ。

一人の男として、その意思は尊重しよう。

だけど……アテナイ王としてはそれなりの対策を迫られる。

僕としても不本意ですが、これは王族たる者の務め。

申し訳ない。」

キルケー「……ぐっ……。

どうして、我が血族の猶子たちは……こうも英雄に弄ばれる……。」

イアソン「……テセウス、退がれ。

オレはもう充分に冷静さを取り戻した。

おまえをキルケーに引き合わせなくなかった理由も分かってくれたな。」

テセウス「そうだね、イアソン。

差し出がましい真似をした。

僕はまた、船の補修の監督に戻ろう。」

アタランテ「——大魔女キルケー。

落胆し、我々を呪いに追い込むにはまだ早い。

汝にはメディアがいるのだ。

私は彼女から、師であるあなたの名を聞くことがしばしばあった。

いまやアルゴー号の旅の成否は、そのメディア自身の悲願でもある。

言葉には出さずとも、メディアはあなたの助けを求めているぞ。」

イアソン「ああ。

アタランテの口添えの通りだ、魔女キルケー。

いま一度、アルゴノーツの盟主として願おう。

我々の出港のために、力を貸せ。

我が妻、メディアの為にも。」

キルケー「……………………。」

(マイルームに戻る)

キルケー「……神々に翻弄され、英雄に翻弄された。

それが我が血族の者たちを見舞った運命だったな。」

アタランテ「私はそのへんは割とどうでもいい。

可憐だったメディアを狂わせ、笑顔を奪う恋などは、とっとと終わってしまえと日々願っていたよ。」

マシュ「……では、大魔女キルケーは英雄イアソンの嘆願に応じ、アルゴノーツへの協力を決心されたのですね。」

「なるほど、手段を選ばぬ生存本能の権化。参考になる」

マシュ「その後はどう……なったんでしょうか。

神話では、まだまだその後もアルゴー号の船旅を続けられたはずですよね?」

アタランテ「神話に伝わる通りだ。

ただ……キルケーはメディア自身に事態を解決させようと最後までこだわった。

自分自身で招いた災厄に向き合わせ、彼女の目を覚まさせようとした。

——そのつもりだったんだろ?」

キルケー「…………ああ。

すべては無為だったけどな。

私みずからアルゴー号を訪ねても、かつての弟子には面会を拒絶されてしまった。

心を開かず、イアソンの他には、誰も寄せ付けようとはしなかった。

イアソンの慰めの声も本当に届いていたかはあやしい。

結局、私はアルゴー号の呪いを浄めるために杖を握った。」