おい待て、貴様は阿呆か。不用意に前に出て即死したらどうする、貴様が緩慢に魔物に喰われ悶え死ぬ様が見れぬではないか。

幕間の物語(女性鯖)

ゴルゴーン「くく、くははははは!

夢。私の夢ときたか。

なるほど、それは実に愉快だ!」

「愉快なの?」

ゴルゴーン「当然だ。

見ろ、貴様を取り巻くこの空虚で寒々しい世界を。

暗く、昏く、生の臭いなぞ何処にもなく。

息を吸い肺に満たされるのは不吉。

瞼を開き眼球に刻まれるのは不穏。

冷たき床は魔物の臓腑が如き陰湿さで貴様が真に倒れ伏すのを待ち構え、醜悪な壁は棺桶が如き息苦しさで貴様という生物の閉塞を求めている。

正しきところなどまったくない、人間にとっての悪夢。

魔に満ちた絶望の形——それは私だ

ああ、ここは実に怪物らしい、私の本質をよく表している世界ではないか!

ここが我が裡だというのならば納得するより他あるまい。

愉快と嗤わずして何を嗤う、ははは!」

「またそんなこと言って……そこ曲がったらお花畑があったりするかも」

ゴルゴーン「…………。

前々から気になっていたが、貴様は私を何だと思っているのだ。

私の本質を理解していないのではないか、という疑念がより強まったぞ。

いい機会だ、改めて口にしてやろう——

私は、ただの魔だ。

怪物に変じるという運命を必然として具えた、ある三姉妹の三女が、実際そうなっただけのモノ。

ただの魔ではあるが、並みの魔を凌駕する力がある以上、私の事を魔獣の女王と呼ぶ者もいよう。

——だのに、貴様はなぜ恐れぬ?」

「意外に話が通じるし……」

ゴルゴーン「————。

意思疎通ができれば良しとは、度しがたい。

それはただ、この私が女神から明確な怪物に変転した前後の状態であるというだけだ。

どうしてこのような中途半端な『過程』の姿で固定され召喚されてしまったかはわからぬが——

それでも明確に、私は女神ではない。怪物だ。

魔と化した神性であり、それ以上でもそれ以下でもない。

だから貴様は——」

「何かが近付いてくる!」

ゴルゴーン「くく。

私は他の魔すら溶かし喰らう魔獣の女王。

であるなら、私の中にそれらが棲んでいるのは当然だな。

さて、このまま貴様が生きながら貪り喰われる様を見るのも、それはそれで一興ではあろうが——」

「できれば助けてくれると嬉しい」

ゴルゴーン「黙れ。

貴様の意志などどうでもいい。

ただ……私の夢の中で、私の一細胞が如き他の魔に餌をやったところで腹が膨れる道理はあるまい。

みすみす貴様の肉をくれてやるのも勿体なかろう。

今はたまたま身体を動かしたい気分でもある——

幸運に思え。

そののち、我が姿に震えるがいい。

貴様はその目で見、そして知るだろう。

今まで呑気に言の葉を交わしていたモノが、いかにおぞましい、吐き気を催す怪物であったかを!」

(戦闘後)

ゴルゴーン「くくく……どうだ?

見たか、我が蛇身の轟きを!」

「ありがとう、助かった!」

ゴルゴーン「そうではなく!

あるだろう、貴様が口にすべき事が! 色々と!

恐ろしかった、失禁してしまいそうだ、お願いだから喰べないでください、と——

そう懇願するところだ、ここは!」

「口にすべき事……と言えば、そろそろ脱出に向かいたいね」

ゴルゴーン「く…………この人間は、どうしてこうも…………!

ええい、もういい。それで!?

脱出方法のあてはあるのか?」

「ないけど、とりあえず進んでみようよ」

ゴルゴーン「——フン。あの通路を進もうと?

不吉な魔の気配に満ちたこの場所に、あからさまに開いている唯一の道筋。

私の鼻に感じ取れるのは、あれが此処以上の地の獄に続いているであろう事だけだ。

貴様はあの禍々しき顎に自ら足を踏み入れ——

さらに私という怪物の深奥を覗きたいというのだな?」

「見られたくないものもあるのかもしれないけど……きっと、先に進まないと出られない。ごめん」

ゴルゴーン「謝罪は要らぬ。

貴様はどうやら自らの命、あるいは正気というものが惜しくないようだ。

失わねばわからぬ価値もあるということか、くくく。

——よかろう。興味が湧いた。

その愚か者の末路、この私が嘲りと共に見届けてやろう。

安心して果てるがいい。

ふはははは……。

…………おい待て、貴様は阿呆か。

不用意に前に出て即死したらどうする、貴様が緩慢に魔物に喰われ悶え死ぬ様が見れぬではないか。

大人しく私の後ろに下がってついてくるがいい。ゴミめ。

まったく…………。」

「(……ありがとう、って言ったらまた怒るかな……)」