そやなあ、何から話そか…。日の本に戻ってからの話でよろしゅおすな? それより前になると、うちも記憶がぼんやりしとる。

幕間の物語(女性鯖)

酒呑「……そも、ここは風情がちぃと少ないんやない?

月見酒と洒落込もうにも、外にはどうも出られへんし。

うち、酒呑んで、華愛でるくらいしかできんし。

あんたはんに絡むのも道理やろ?」

「花が好きなの?」

酒呑「そら、まあ。

一番は酒、二番は華、三番は美童——

四番はなくて五番は月やろか。

気持ちようなれるモノ、綺麗なモノは好きやわぁ。

……ん?

どないしたの、そんな顔して。

大江山の鬼なんて言うても大したことあらへん。

うち、ただの酒呑みどすえ。

まあまあ人も喰うには喰うけど、温羅(うら)はんや大嶽丸はんほど荒ぶるワケでなし。

ま、ともあれ鬼は鬼。

ヒトからすれば大して差ぁもないんやろねぇ?」

「昔、具体的にどんなことをしたの?」

酒呑「ん——

よろしやす。

別段隠すようなコトもなし。

他でもないあんたはんのためやもの、二、三、つまんで聞かせるのも構へんよ。

そやなあ、何から話そか……。

日の本に戻ってからの話でよろしゅおすな?

それより前になると、うちも記憶がぼんやりしとる。」

「日本に戻る前とは」

酒呑「ああ、知らへん?

うち、古くは大陸にいた時もあるんやけど——

そういや誰にも言うてないなぁ。

そら、後の世に伝わるはずもないわぁ。

ま、なんでもよろしおす。

なんやかんやあって、やれ、日の本に戻ったんどす。

京のあたりをふらついて、川のあたりをふらついて。

気付いたら、大江のお山のたいそう立派な御殿で酒呑んでてなぁ。

茨木がな? 茨木童子。

あれが気ぃきかせて鬼の巣へ案内してくれたんやろな。

御殿もあれが鬼どもと建てたんやろねぇ。

お山の上に、あれよあれよと見事なモノを。

それからは、まあ愉快に過ごしたわぁ。

呑みたい時に呑み、愛でたい時に愛でて。

気の向くままに都に下りて、気の向くままに殺して喰って、殺して奪って。

気に入ったもんはお山へ持ち帰って……

花、月、イケメン、可愛いおなご、珍しい石に最上の反物、器、色んなもんを愛でたなぁ。」

「……人を殺した?」

酒呑「ぼちぼち。

そないに楽しく過ごしてたんやけど、そら長くは続かんわなぁ。

京の公家やら陰陽師やら、たいそう怒りはって。

音に聞こえし源氏の次期棟梁、源頼光と四天王、なんてのを送ってよこして——

——ああ。

あれは、えらく楽しい夜どしたなぁ。

前から狙てたんよ、金髪碧眼の小僧。

そしたら向こうから来てくれて。」

「坂田金時?」

酒呑「そそ、それそれ。

公時転じて金になったあの小僧や。

おかしな話やよねぇ?

後に講談で人気者になった途端出世するとか。

将棋の駒じゃああるまいし。

……はあ。

あの小僧の体見ると、思い出すわぁ。

あの夜、うまくやれば赤龍の尺骨、抜いて酒に漬けられたんやろなぁ。

どれだけの味がするやろか?

呑んでみたいわぁ。

まあ、でも、あの夜はうまいことやられて。

殺し合いはあちらはんの勝ち。

毒の酒を盛られて——

で、まあ。

そうこうしてるうちに酔っ払って、おしまい。

神便鬼毒酒!

あないにいい酒振舞われたら、そら呑むわぁ!」

「……寝込みを襲われたんだよね」

酒呑「せやねえ。

気持ち良う寝てるところを、首、すっぱり。

あの時の小僧の顔、今でもよう覚えとるわ。

やりきれへんって書いてあるみたいで。

——ああ。でも。

あの青い目、もっぺんちゃんと見たかったなぁ。」

「遠い目をするんだね。彼の事が好き?」

酒呑「あら、まぁ。

あんたはん、そないに言いはるのはもしかして?

よその男の話なんてうちがするから妬んではります?

ふふふふふ、大江の鬼を怖がるどころか妬むなんてさすがの度胸やわぁ。

たいしたおひと。」