悪と戦うのは天ではなく、我々ですが…。悪を裁くのは法であり天であって、決して己では無い。

幕間の物語(女性鯖)

不可能を不可能のままにしない、人間の業。

それは凶悪な力でもありますが、未知を既知とする希望でもある。

——そう、確かに人間とはそういうもの。

大航海時代の人間が、凶悪であるが故に未知を開拓した者たちならば……。

私を火刑に処した者たちは、善を全うしようとしたが故に残酷さを露わにした。

人の悪を許すことはできる。

だが——人の善を許すことは、できるのだろうか。

ジャンヌ「マスター!

船が1隻、前方に見えます!

あれは……漂流しているのでしょうか?

帆がボロボロです。」

「乗員がいるみたいだ」

ジャンヌ「こちらに手を振ってますね。

船は接近しているようですから、声を掛けてみます。

どうしました、何がありました!?」

船員「助けてくれ!

この船はもうすぐ沈んでしまう!

そちらの船に移らせてくれ!」

「あ、船が停まった……?」

ジャンヌ「どうやら、是が非でもこの船に移らせるつもりのようですね……。

では、そちらの方!

板を渡します。急いで下さい!」

漂流者「ありがとう、ありがとう……!」

ジャンヌ「女性と子供たちを優先して下さい。

まだ大丈夫です!

(船が軋む音)

……っ。

おかしいですね……。

この程度の人数で沈むほどの船ではないはずですが。

そちらの人間は、これで全部ですか!?」

船員「いや、まだだ!

まだ、後2人残っている!

おい、2人とも!」

ジャンヌ「え……?

嘘、そんな、まさか……!

な——何故、何故あなたがそこに!?」

「ジャンヌ……?」

ジャンヌ「どうして、ここに居るんですか!?

母さん……!」

船員「いやいや、驚くにはまだ早いなァ!」

メフィスト「——どうもどうも、お久しぶりでございますな!

かれこれ数日くらいでしょうか?

全員、一時停止!」

ジャンヌ「メフィストフェレス!

一体、何を……!?」

メフィストフェレス「ああ、彼らはただの脇役ですから。

騒がれても困りますし、放っておいて下さい。

——では、ジャンヌ・ダルク。

わたくしを除けば、こちらの船の乗客は残り2人。

1人はジャンヌ。

あなたの母親デース!

わざわざフランスからはるばるお越し下さり、ありがとうございました!

なんてね。ケヒヒヒヒ!

そしてもう1人。

こちらもあなたにとって、非常に重要な方ですよ?

では、ご紹介しましょう。

イングランドの命によって、あなたを火刑へと導いた薄汚い聖職者。

金を積まれ、あなたの魂を焔で灼いたどうしようもない人間のクズ。

あなたが火刑になるとき、あなたを嘲笑っていた男。

そう、もうお分かりですね!」

ジャンヌ「ピエール・コーション……!!」

メフィスト「イグ・ザク・トリー!

はい、お母さんとピエールちゃんだけ解除しましょうね〜。

痛くないでちゅよ〜バブバブバブ〜。」

司教「……ひっ、ひっ、ひっ……。

引っ張らないで、痛い、痛い、痛い……!」

母親「……ああ、ジャンヌ……。」

メフィスト「そしてその船ですが、限度はあと1名。

それ以上乗せると、必ず沈む

さあ、ジャンヌ・ダルク。

選択して下さい。

あなたが救うのは、あなたを愛し続けた母親か?

それとも——

あなたを蔑み続けたこの老人か?

さあ、さあ、さああああああああ!!」

ジャンヌ「——何だ。

そんなの決まっているでしょう。」

メフィスト「はひ?」

(ジャンプするジャンヌ)

ジャンヌ「私がこちらに移れば、問題ありません。」

メフィスト「……全く躊躇いがありませんね。

さすがと言えばさすが。」

ジャンヌ「……お母さん、恐らくあなたは私からすれば幻なのでしょう。

でも、一目会えて良かった。

さ、行って下さい。」

母親「そ、そんな……。」

ジャンヌ「ピエール・コーション司教。

……ともかく、さっさと行って下さい。」

司教「…………。

わ、私は間違ってない。

おまえは、魔女だ……!」

ジャンヌ「——それで構いませんよ。

ええ、まったく頑固者ですね。」

(走り去る音)

「戻ってくるんだ!」

ジャンヌ「いいえ。これが正しいのです。

申し訳ありません、マスター。」

メフィスト「……あのピエール・コーションを何故許せるのです?」

ジャンヌ「母の哀しみはいつか癒える。

私の憎悪もいつか消える。

悪と戦うのは天ではなく、我々ですが……。

悪を裁くのは法であり天であって、決して己では無い。

私は彼を許せないでしょう。

しかし、それと救済は別問題です。

可能であるなら、私は彼を救いますよ。

何度でも、です。」

メフィスト「しかし、最後の捨て台詞を聞いたでしょう?

彼はまったく反省していませんよ?」

ジャンヌ「彼の反省、彼の後悔、彼の改悛などに期待してはいません。

人間は所詮、自分以外の何者にもなれない。

……さあ、メフィストフェレス。

船が沈むのでしょう?

貴方も向こうに渡りなさい。

いくらサーヴァントでも、海の真ん中に放置されては辛いでしょう。」