人は、変わらぬ。変わる在り方を尊く想えるなら、変わらぬ在り方は美しく見えてしまう。幻想だというのに。我もまた、惑うということか。

幕間の物語(女性鯖)

「どうしました?」

???「いえ、失礼。

嘆いているのです。

実は三十以上下の嫁を、今から迎えに行くのですが……。」

セミラミス「——何か不満が?

三十も下ならば、少なくとも貴殿が死ぬまでは安泰だ。

……おまけに嫁ならば、老後の世話もしてくれるでしょうに。」

???「それが哀れなのです。

養父以外に身寄りがないことを気の毒に思い、嫁というよりは娘として引き取ったのですが……。

嫁になる、ということは彼女の愛の選択を狭めてしまう。」

セミラミス「浮気をするとは考えないのですか?」

???「無理でしょうな。

彼女は貞淑に育てられた。

浮気など考えることもないでしょう。」

セミラミス「……ならば、彼女を手放しますか?」

???「それが……それができれば……。

苦労はしない、しないのです……!

ですが、このままでは。

このままでは……。

彼女の幸福を私が奪ってしまう!」

「今、何か……?」

マシュ「はい。

申し訳ありません、皆さん。

現在対話中のキャラクターですが、感情を爆発させる度、仮想霊基に変化が生じています。

具体的にいうと、エネミー化しつつあります!

これ以上の対話は戦闘状態に移行する恐れが——」

セミラミス「いや、戦うなら構わぬ。

ご老人。進言を奉る。

それはただの妄言だ

彼女に、娶られる以外の選択肢はない。

もしここで娶られなければ、誰もがこう思うだろう。

“あの老人が娶らなかったのだから、あの女には何かあるに違いない”と。

病気か、性質か、いずれにせよ彼女は失墜する。」

???「おお、おおお……。

私が……私が、悪いのかっ……!

ああ、ああああああああああああ!」

セミラミス「……仕方あるまい。

ひとまず彼を落ち着かせよう。

マスター、指示を。

ただし、悪いが殺さないでもらいたい。

それからシェイクスピア。」

シェイクスピア「おっと、何でございましょう。」

セミラミス「何でございましょう、ではない。

責任を取って貴様も戦え。」

シェイクスピア「了解でーす!

しかし吾輩、この手のタイプとは相性が悪いので!

恐らくサポートするだけしてから退出いたしますぞー!」

セミラミス「それでよい。

では戦うぞ、マスター!」

(戦闘後)

???「私の……せいだ……。」

セミラミス「いいえ、それは違いますよご老人。

彼女はあなたに娶られなければ、名もなき女でしかなかった。

……ああ、そうだな。

やはりこれはにとって最良の選択だった。

彼女に成り代わって謝罪しよう。

あなたは結婚しなかった方が、幸福に生を終えることができたのです。

ですが、あなたは彼女を得た代わりに絶望を抱くことなる。」

???「……ええ、ええ。

それでも構わないのです。

彼女が、セミラミスが幸福になるならば。」

マシュ「え……!?」

???「私は、それで——」

(消滅する音)

セミラミス「ふむ。

やはり上手くいかないものだな。」

マシュ「……あ、あの。

もしかして今の方は——

知らないのか? 元夫だ。

む、今風に言うと元カレ……いや、違うか。

元々天涯孤独の身、娶ってくれるなら誰であろうと問題なかったが——

こちらの想像以上に、あの老人は善良でな。

覚悟を決めていた自分も拍子抜けしたものよ。

——もっとも、先ほどの会話通り。

その末路は決して幸福ではなかった。

我を見初めたニノスという男がいてな。

オンネスからこの身を強奪した。

落胆したあの老人は自ら命を絶つことになる。」

「この人のために過去を変えたかったの?」

セミラミス「……いや、我が我であるためにこの老人は必要だった。

ただ——そうさな。

我に深く根付いた男であるこの老人を救えるならば。

聖人すらも惑わせることができるやもしれぬ

そう思っただけさ。

フン、無駄な行為だ。

人は、変わらぬ。

変わる在り方を尊く想えるなら、変わらぬ在り方は美しく見えてしまう。

幻想だというのに。

我もまた、惑うということか。」

シェイクスピア「……ふーむ。

何やら事情があるようですが、恐らく今の吾輩には無関係。

市井の一人として、慎ましく穏やかな人生を過ごす。

女帝殿ともなれば、そういう凡庸に憧れると思いましたが、いやいやどうして、あっさり切り捨てるものですなぁ!」

セミラミス「当然だ。

——我はサーヴァントであるこの身が、それなりに幸福だからな。

無意味な行為に付き合わせて悪かったな、マスター。」

「別にいいけど」

セミラミス「フフ、素朴だな貴様は。

褒美に何ぞくれてやろう。

さて、何がいいものか——

チョコは飽きただろうから、そうさな——」

——この庭園、生半可なことでは完成せず、そもそも我は造らぬ。

なぜ、これほど本気を出したのか。

それほどまでに勝ちたかったのか。

庭園にある欠片。

そこにわずかに宿ったモノの記憶。

破壊と、勝利と、敗北と、出会いと、祈りと——

……いや、考えてはいけない。

そう己を戒める。

これは違う我の記憶。

領域を逸脱してはならない。

それは誰より、自分自身に対して礼を失している。

そうして、私は拾い上げた石の欠片(きおく)を、ため息と共に——

放り捨てたのか、手に握り締めたのか。

それは、鳩だけが知るべき事柄である。