伝説の通り、私はとある秘薬によって恋に落ちました。あの狂おしい情熱を、白い手のイゾルデにはどうしても感じられなかった。

幕間の物語(男性鯖)

「何か悲しいことでもあった?」

トリスタン「なかなか直裁的ですね。

……はい。悲しい出来事を思い出しました。

イゾルデを思い出していたのです。」

マシュ「イゾルデというと、トリスタンさんの……。」

トリスタン「私の生には二人のイゾルデが存在します。

私が愛したイゾルデ。

私を愛した白い手のイゾルデ。

……というと、大抵の相手には誤解されます。

率直に言って道徳を軽んじる、美男子にありがちな二股男ではないか、と。」

「どちらも愛していたのでは?」

トリスタン「……ええ。そこが問題なのです。

——実際のところ、はたして私は本当に誰かを愛したことがあるのかと。」

マシュ「え……!?」

トリスタン「伝説の通り、私はとある秘薬(フィルトル)によって恋に落ちました。

あの狂おしい情熱を、白い手のイゾルデにはどうしても感じられなかった。

ですが、所詮それは薬です。

一夜の夢、過ちでしかなかったのでは?

そう、そもそもの発端として私は生まれてすぐに愛されたことがなかった。

幼少期に愛を知らなかったために、誰かを愛するということを学ばなかったのでは?

……そう考え始めると、精神があっという間に失墜し、気付けばあの曲を奏でていたという訳です。」

マシュ「いいえ、そんなことはありません。

トリスタンさん、あなたは誰かのために躊躇いなく命を捧げられる英霊でしょう。」

トリスタン「それは騎士ゆえ、当然です。

しかし……ああ、しかし……

ベディヴィエール卿が言うように、やはり私は人間失格なのでは?

愛知らぬ哀しき竜として、マルタ殿に退治される運命すら感じずにはいられない……!」

「止まってー!」

ガウェイン「ははは、またトリスタンの病気が始まりましたか。

嘆き病……一度自己否定が始まると長いですよ。」

マシュ「ガウェインさん!」

トリスタン「ガウェイン卿……。

いやしかし、この苦悩は貴公でも理解できないでしょう。」

ガウェイン「ああ、まったくもって理解できないとも。

悲しみが、ではなく、悲しむ理由が、ですが。

貴公ほど誰かを愛してやまない人間はいない、と私は思っています。

そも、愛とは形のないもの。

忠誠ですら一種の愛と言えるのではありませんか?

肉欲の有無は関係ない。

情熱の多寡すらも意味がない。

例えば、弱くとも穏やかさを胸に生きた男が慎ましいまま誰かを妻に迎え……

殺されたくなければ妻の命を差し出せ、と強大な存在に脅され泣く泣く屈した場合、はたして男は妻を愛していなかったと言えるのか?

牙を持つ我らは、彼に対して『おまえは彼女のことを愛していなかった』などと責める立場にあるのだろうか?」

トリスタン「それは——。」

ガウェイン「『手放したくない』と思うだけが愛ではない。

卿は愛を知らないのではなく——」

トリスタン「私は……。」

ガウェイン「……失礼、余計なお節介でした。

つい戦いの要領で踏み込みすぎたようです。

マスター、トリスタンの悩みに付き合う必要はありませんよ。

嘆きの雲なぞ、活力で払えばよろしい。

シミュレーションで体を動かせば気も紛れましょう。」

「そうだね」

トリスタン「……そうですね。

些か直情的ですが……

ガウェイン卿の案に従ってみましょう。

ではマスター、どうか指示を戴きたい。

今の迷い方では、貴方に何から何まで指揮を委ねてしまう方がいいようですから。」

ガウェイン「では、相手は私をシミュレートしてください。

可能なかぎり強くお願いします。

何しろトリスタン卿の、その複雑怪奇な知性を真っ白にするほどの運動ですので。

相手となる騎士はそれこそ最強の、太陽の如き騎士でなくてはね。」

「ガウェイン全力……!?」

トリスタン「ええ、全力のガウェイン卿の恐ろしさは私も良く知っています

今は懊悩を止めて、戦うことに専念しましょう!」

(戦闘後)

マシュ「お疲れ様でした、先輩。

……強かったですね……。」

トリスタン「……まったく荒々しい。

あれほど浮かんでいた旋律を忘れてしまった程です。

……ええ。

お陰で何もかも忘れて戦いに没頭できました。

しかしサーヴァントとなってもなお、思い悩むとは……。

第二の生、とは良く言ったものです。」

「あまり思い詰めずに」

トリスタン「ええ、何かあればマスターへ。

私は貴方に隠し事をする気はありません。

(ポロロン♪)

……音が弾みます。

どうやら今宵は、良い曲を弾けそうです。

ではマスター、今宵はここで。

お互い、良い夜のとばりが落ちるように。」