…悪しきギフトはここに消失した。だが…妖姫(あねうえ)…どこぞに顕れているというのか…

幕間の物語(男性鯖)

トリスタン「く——

王よ、貴方に私の心はわからぬ!」

アルトリア「——いいや、貴公の心は誰より貴公自身が理解していない。

……違うか。

理解していないのではなく、拒んでいる。

聖槍の輝きを以て、貴公の祝福を打ち破る。

そして——

貴公の惑いは、マスター殿が打ち消すだろう。

……カルデアのマスター。

トリスタンの伝説はご存知でしょうか?

彼は愛を諳んじながら、心の何処かでそれから目を逸らしていた。」

「トリスタン。罪悪感と愛は、違うものだけど。あなたは、愛したかったのでは?」

トリスタン「! 

……わた、しは……。」

???「——黒い帆でございます、トリスタン様。」

毒により目が霞んでもなお、衰えることのない聴覚が知らせてくれる。

震える声、罪を告白するような囁き。

悔恨、悲哀、憎悪。

そしてそれでもなお穢れぬ、こちらへ向けられた無垢な表情。

トリスタン「……ああ、そうですか。

ならば、仕方ないでしょう。」

ひどく、申し訳ないと思った。

彼女にそのような言葉を言わせるほどに、私は彼女を傷つけていたのだろう。

イゾルデ。

白い手のイゾルデ、私を看取る君よ。

娶りながらなお、不実な私に尽くした君に対して、今の自分ができることは、信じる以外にない。

そう。

黒い帆が、きっと来たのだろう。

感謝がある。

憐憫がある。

贖罪がある。

——愛は、あったのだろうか。

思考が冷える。

不実な私に、誠実なる彼女を愛する資格はあるのだろうか?

無い。

そのことに気付いたときこそ、私の死。

かつて抱いた熱情の愛は秘薬(フィルトル)が理由で、私が自分自身で掴み取ったものではない。

けれど、私はあれこそが愛だと信じた。

信じて、白い手のイゾルデを裏切り続けた。

ああ、私こそは愛知らぬモノ。

与えられる愛ばかりで、何一つ自分で愛したことなど——

トリスタン「……いいや、そんなことはない。

何故なら、あの時私はこう思ったはずだ。

『こんなにも優しい女性に、』

『こんなにも悲しい想いをさせたまま、』

『死んでいくのはただ無念、』

『君に謝りたい、君に語りたい、君に告げたい』

『——そしてこう問いたかった』

私は君を、愛してもいいのだろうか』と。」

その問い掛けを投げることはできず、彼女にあの言葉を告げさせた。

トリスタン「そうだ、私は——

問うべきだった。

たとえ、恨み言と罵りが返ってきたとしても。

結果として愛を失ったとしても、かくあるべしと思うべきだったのですね……。」

アルトリア「(……悪しきギフトはここに消失した。

だが……妖姫(あねうえ)……どこぞに顕れているというのか……)

トリスタン卿、問おう。

まだ貴公は誰かを愛していないと?」

トリスタン「…………いいえ。

生前の私に足りなかったのは、愛ではなく勇気だった。

愛を失うことを恐れ続け、愛を得ようと踏み込めなかった。

私はかつて、二人の女性を愛していた。

……それでいいのです。

その結果など求めずとも。

ありがとう、マスター。

そして我が王。

私は——夢からようやく覚めました。」

アルトリア「ガウェイン、ランスロット、トリスタン。

そして——

貴公らは引き続き、人理修復を執行せよ。

円卓の騎士である矜持を、決して忘れるな!」

(通信音)

モードレッド「おーし、消えた消えた。

で、だ。

トリスタン、ツッコミを一つ入れておくとだ。

白い手のイゾルデも、金髪のイゾルデも、二股男なんざ願い下げだろうさ。

テメェは毒で死ぬまえに、ビンタを往復でかまされてりゃあ良かったんだ。」

トリスタン「ふっ……

真実を突くのがよりによって貴公とは。

……腹立たしいので、帰還したら覚えておいてください。

その無駄で愚劣な猪突猛進を、無限の矢で搦め捕ってあげましょう。」

モードレッド「逃げながら矢を撃ちまくるのがテメェらアーチャーの戦術だものな。」

ランスロット「フッ、待つのだモードレッド卿。

トリスタン卿にはその前にやるべき事がある。

とても大事なことがね。うん。」

モードレッド「あん?

おめぇら一体——」

トリスタン「?」

ガウェイン「ははは、そうですねははは。

王の聖槍で殴られなければ目が覚めぬほど混乱し、我々をギフトで思う存分タコ殴りとは。」

ランスロット「しかも王はトリスタン卿の説得に集中なされていて、我々には最後に顔を向けただけであったな。

いやいや。

別にそれが羨ましいという訳ではないのだが。」

トリスタン「卿ら——いえ、みなさん。

もしや、激おこなのです?

いえ、冷静に考えるまでもなく、仲間を巻き込んでの大騒動でしたが……

それはそれとして、感動的な終わりになったというのに……?」

「そりゃそうだろうな……」

ベディ「ええ。

償えない罪はないのです、トリスタン。

ただ、許されるかはまた別の話なだけですよ。」

トリスタン「…………。(ポロロン)

マスター。」

「うん」

トリスタン「……骨は……拾ってください……。」

「円卓ジョーク!」

トリスタン「ジョークでは——!?」

モードレッド「お、悪かったな占領しちまって。」

マシュ「いえ、とんでもありません。

でも、トリスタンさんたちは大丈夫でしょうか。」

モードレッド「大丈夫って何がだ?

マスター共々、すぐにでも戻ってこれるだろ。」

マシュ「ええとその、皆さんに遺恨などは——」

モードレッド「遺恨?

あー、そんなモン残るわきゃねえだろ。

オレとあいつらがマジ顔でやらかしたんならともかく、あいつら同士でやり合うんなら、そりゃただのじゃれ合いだ。」

マシュ「じゃれ合いですか、あれが!」

モードレッド「なーに、賭けてもいいぜ。

明日の夜には、四人揃って馬鹿笑いして、くだらねぇ話に興じてやがるよ。

円卓の騎士ってのはまったく——

どいつもこいつも、クソ面倒臭い連中ばっかりだ!」