強力な魔力の集合体…!? これは——サーヴァントの影でも、亡霊でもなくて…まるで…あの、魔神柱のような——

幕間の物語(女性鯖)

ネロ「わざわざすまないな藤丸。

今回、呼びつけたのは完全な余の私用だ。

……皇帝連合は消え去り、我がローマはうたかたの平穏にある。

しかし、だ。

第一の市民としてローマを導くもの……

ネロ・クラウディウスは既にいない。

いや、正確には人として生きたネロはいない。

余が藤丸と契約したからであろう。

人としてのあの者は史実通り、ローマより去った。

いま皇帝として座るのはこの余である。」

マシュ「時代の修復力……いえ、修正力ですね。

サーヴァントとしてのネロさんがいる以上、皇帝ネロは既に死んでいなければおかしい。

正常な時空であれば生前の人物と死後サーヴァントとなった人物が同時に存在しますが、特異点では『いま正しいこと』『強いこと』が優先される。

英霊ネロさんが先輩と契約した時点で、セプテムにおける『ネロさん』はこの『ネロさん』になってしまった……」

「しまった、は余計だよマシュ」

マシュ「……すみません、失言でした。

批難するつもりはなかったのですが……

申し訳ありません、ネロ陛下。」

ネロ「よい。

マシュが悲しんでくれた事は、いなくなった余の事であろう?

であれば許す。というか嬉しい、

マシュは暴君と呼ばれた余の死を悼んでくれたのだから。

……と、いかん。

藤丸といるとつい気が緩む。

今回、セプテムに来たのは他でもない。

マスター協力してほしいのだ。

前回、余が舟を出したのは覚えているな?

その時にチラと小耳に挟んだ話がある。

ローマの郊外、曰く付きの呪われた荒野によくない亡霊が出るのだとか。

余はその亡霊に心当たりがあってな。

今はサーヴァントとして皇帝の職務に励んでいるが、いつ責務を終え、消え去るか分からぬ身だ。

……だから、その前に。

余の手で、ローマの憂いを一つ断っておきたい。」

「そういう事なら、喜んで」

ネロ「——うむ。

頼りにしているぞ、我が契約者よ。」

マシュ「日が落ちてきましたね、先輩。

見慣れている風景なのに、とても淋しい……

……まるで誰もいない世界、誰からも忘れられた舞台のようです……」

「そういえば、心当たりって?」

ネロ「うむ、このあたりだとも。

岩のカタチ、風の音、朽ちた落陽の色。

そのすべてを、余は今も覚えている。

この荒野で命を落とした、ある皇帝の末路をな。」

マシュ「————!

ネロさん、ここは——」

ネロ「うむ。私の死地だ。

ネロ・クラウディウスはここで自らの喉を刺した。

ネロは市民を愛した。

燃えるような愛を示し続けた。

しかし、それは人々の言う温かな愛ではなかった。

激しく求め、激しく与え、激しく燃え尽きる。

そんな愛情の在り方しか、ネロは知らなかった。

押しつけがましい、と言えばいいか。

人々にとってそれは毒である事を、ネロは最後まで気づけなかった。

ネロはある失策から己の立場を弱め、元老院の策略で皇帝の座を追われた。

軍は敵に回った。だがネロは信じた。

自分があれほど愛した市民たちが自分を守るだろうと。

……結果は言うまでもない。

市民たちは、愚かな暴君を守らなかった。

ネロは追っ手から逃げ出したものの、その哀しみから自決を選んだ。

——ネロが何を哀しんだのかは、余には語れない。

ただここで命を終えたとしか。

……だが。

ネロは、そう簡単には死ななかった。

死にきれなかった、のであろう。

……喉の苦しみ。胸の痛み。瞳の熱さ。

あれは、まるで熱に浮かされたような時間だった。

ネロは追っ手に見つけだされる事もなく、三度、落陽を迎えていた。

日が落ちようとする頃、ネロは目を覚ました。

遠くから、自分を呼ぶ声が聞こえた気がしたからだ。

それは愛した市民たちの声だ。

ネロ皇帝に咎めなし、と。

ネロを喝采する声だ。」

ネロ「ふふ。

まさに恥の上塗りよな。

そんなものは何処にもない。

何処にもなかった。

……それでも。

確かめるように、ネロは目を覚ました。

一度目の落陽。

ありえない幻に鼻をかんだ。

二度目の落陽。

きこえない呼び声に唇をかんだ。

そして、三度目の落陽で——」

マシュ「……はい。

皇帝ネロは、最後の言葉を残しました。

皇帝ネロの遺体を見つけ、野ざらしでは哀れだと思った兵士がその亡骸に布をかけた。

その時、皇帝ネロは目を覚まして言いました。

“遅かったな。だが、大義である”と。」

「……………………。」

ネロ「うむ。

余の運命はそこで終わりだ。

最後の瞬間、ネロが何を思ったのか、実のところよく分からぬ。

だがネロはそれで良しとした。

たとえそれが愛した市民の手ではないとしても——

最期に人の温かみで幕を閉じられた事が、あの暴君には嬉しかった。

それは余が今も夢見る機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)。

どれほど無理があろうと物語を“めでたしめでたし”で終わらせる、最後の奇蹟だったのだから。

あの兵士がいなければ私は今も、この荒野でありもしない声を待っていただろう。

だからこそ!

余は、貴様を斬らねばならない!

荒野に迷う暴君の夢!

散ることを忘れた繁栄の華!

いまだ終幕を受け入れぬ余の亡霊よ!

現れ、剣を取るがいい!」

マシュ「強力な魔力の集合体……!?

これは——

サーヴァントの影でも、亡霊でもなくて……

まるで……あの、魔神柱のような——」

ネロ「第五皇帝、ネロ・クラウディウスが願い請う!

我がマスター、藤丸よ!

余に力を貸してほしい!

あまりに遅すぎたが——

余が過ち、我が剣で清算する!」

「ああ、任せろネロ……!」

(戦闘後)

ネロ「ばかものが!

役者たるもの、終幕を拒んでなんとする!

我らは存分に栄え、その末に滅びるもの!

死は避けられぬ! 

終わりは変えられぬ!

だからこそ謳うのだ!

だからこそ叫ぶのだ!

余は愛する事を悔やまず、諦めぬ!

幾たび、終幕を迎えようと!」

亡霊「…………ああ………………聞こえる…………都の嬌声……………………六番目の…………」

(消滅する音)

ネロ「……さらばだ。

ついぞ、“私”に戻る事のなかった少女よ。」

「ネロ……」

ネロ「……うむ。

くだらぬ独り言だ、気にしないでほしい。

それより——

見事であった、藤丸。

さすがは我が契約者!

頼もしい事この上なかったぞ!

おかげでローマを騒がす……

いや、騒がしてはいないな……

なにしろ無視されていたからな……

淋しいな、余……

ちょっとヘコみそうだぞ……

いや、そこはそれ、市民たちは余に気を遣って見ないフリをしてくれていたに違いない!

さすがは余、そしてローマ市民たち!

人類最高の空気を読んだ、だな!」

「どこまでも……ポジティブッ!」

ネロ「ふっ。

そうでなくては皇帝なぞ勤まるものか。

わずかな希望があれば平気だと笑ってみせる。

それが余の生き方だ!

何度倒れようと、諦めるまでは立ち上がる!

次からはその証をみせるぞ、マシュ、藤丸よ。

その勝利はそなたらのおかげ。

返礼は戦場の活躍をもって返すとしよう。

ではカルデアに戻ろうではないか、マスター!

我らの手で、地に万雷の喝采を!」