「書の世界に心の底から身を浸すには、本をめくる音だけが心地良く響くような場所でなければ——」「音楽あるところに渚の第六天魔王あり! そう——わしじゃ!」

幕間の物語(女性鯖)

紫式部「それでは、微力ながらお力になれますよう、添削をさせていただきます。

ここはもう少しこう、そしてここはこうしたほうが……。」

武則天「ふむふむ。なるほどのぅ。」

紫式部「で、ですね……その……。

この部分、原典と内容が違うようなのですが、これは……?」

武則天「それは無論、妾におりじなりてぃーである!」

「なんて書いてあるの?」

紫式部「はい。

真面目に御仏の教えを説いてある中にですね、唐突に『そして女帝も仏と同じくらい偉いので敬うべし』、と……。」

武則天「おお。つい癖が出た。」

「癖?」

武則天「かつて女帝になる前、側近の僧と話していたとき、女帝になるには下地が足りぬ、これでは民の不安が拭えぬ、などとそやつが言い出しおってな。

そのとき妾たちは大雲経なる経典に目をつけた。

そこには出世する天女が出てくるのじゃが、

『この天女は貴女様であることにしましょう』

『というか弥勒的なものであることにしましょう』

などとそやつが新解釈を打ち出しおってな。

その内容で書を作らせているうちに、妾のほうも、そうかな? そうかも? と思うようになり——

かくして新大雲経を世に広めた妾たちは、すむーずに即位を果たしたというわけじゃ!

だからまあそのときの癖で、真面目な経典を書き写しているとなんだか妾がその登場人物にいるような気がして筆がノってしまうという……うん。

そのようなものじゃ。」

(ぽろろん♪)

紫式部「は、はぁ……なるほど……。

書の指導には関係ないので、文の中身は気にしないことにしておきましょう……。」

武則天「中身と言えば、そなた、中華の歴史書や思想書も当然嗜んでおろうな。

書の次にはそちらの講義もお願いしよう。」

(ぽろろん♪)

紫式部「いえ、勿論読んではおりますが、唐の女帝様に内容について講義できるかと言われればそれはまた別の問題で——

(ぽろろん♪)

ああ、少しすみません。

先程からぽろろんぽろろんと、この音はなんでございましょう?」

トリスタン「私は嬉しい……

白鳥の如き詩の力が必要だと請われ来てみれば、ランスロット卿も目を輝かすほどのドストライクなアンニュイ美女に、

“ちょっとだけ騒がしいですね。

でもとても美しい音色……ポッ……”

などと……ふふ……

これは今年の運勢は礼拝堂の窓より高いとみました……」

紫式部「音の主は貴方ですね!

図書館ではお静かに!

他の方のご迷惑になりますので!

また、そのような発言はしておりませんっ!」

トリスタン「なんと……

では、今のは私の妄想だった……?」

「あの、いいかな。呼ばれたって誰に?」

武則天「おお、そうじゃったそうじゃった。

それは勿論妾である。

言ったであろう?

はいそさえてぃーな部分の鍛え直しには書の他に詩もじゃ。

うたと言っても詩を吟ずるだけではない。

楽器を奏でるのも文化人としては当然の嗜みよな。

後宮に入ったときも、帝の耳に届くよう、必死で——

まあ、あのころの話はよい。

ともかくも音楽じゃ。

しばし待つがよい、楽土。

今しばらく書の修練は続く。

そうじゃな……

暇ならば軽く一曲、弾いてくれぬか?

演奏技術を取り戻す前に、音楽を聴く耳の調子を調えておくのも悪くない。」

トリスタン「ほう……

思うに、今日の私は図書館の備品。

美しきマダムたちが文字を目で追うのに疲れたとき、代わりにそっと目を遣る小鳥です。

その囀りを読書のBGMとするのも役割の一つでしょう。

わかりました、お任せください。

哀しい場面では沈痛なるレクイエムを。

激情が迸る場面では血湧き肉躍るロックを。

そして愛の囁かれる場面では、この口からの臨場感溢れる囁きウィスパーを、ご提供いたしましょう……。」

(ぽろろん♪)

紫式部「ですから、図書館ではお静かに!

ぽろろん禁止です……!

よいですか。

図書館とは、外界の喧騒から隔絶された静寂の楽園であるべきなのです。

素晴らしき書の世界に心の底から身を浸すには、本をめくる音だけが心地良く響くような場所でなければ——」

(激しいギターの音)

ノッブ「音楽あるところに渚の第六天魔王あり!

そう——わしじゃ!

聞いたぞ聞こえたぞ、ロックがどうとか!

すなわち今回のフェスティバル会場はここじゃな?

それにしても、うーむ、地下にこのようなエリアがいつのまにか出来ておったとはのぅ。

暗く、陰気で、しかし夢がいっぱい胸いっぱい。

まさにライブハウスにぴったりではないか……!

ともあれ、わしも参加せずにはいられまい!

地下でも燃え上がらせようぞ、ロックンロールの炎を!」

武則天「なんかうるさいのが来た。

そなたは呼んでおらんのじゃが……。

しかし、ろっくんろーる、か。

新しい音楽じゃな。

逆に学んでみるのもアリであろうか?」

ノッブ「うっははは、その意気やよし!

ロックは心意気の話ゆえ、ロックをやろうと決めた時点で既に完成しているのじゃがな。

じゃがギターはちっとムズいぞ。

Fのコードとかわりと鬼門。

はたして一朝一夕に覚えられるかな、うちの茶々となんかカブっとる気がする小娘よ!」

武則天「カブってなぞおらんぞー!

ちょっと身長と喋りが似とるだけじゃろうが!」

「ああ、なんだかカオスなことに……」

紫式部「混沌。

それこそが図書館に一番あってはならないものです。

書架にも読書スペースにも、秩序こそがあらねば。

司書としてこの騒ぎを見過ごすわけにはまいりません。

実力行使で!

静かにさせていただきます!」

「司書さんがお怒りですよー!」