妾は、あれが正しいと信じた。あれが、正しい国を作るための唯一の法だと信じた。だから行ったのだ。そこに決して嘘はない。

幕間の物語(女性鯖)

マシュ「あ、あれは……?」

「これって……どういうこと?」

武則天「……ふぅ。

おおよその事情は分かった気がする。

みなまで申すな、紫菜、爬兎。

——いや、マシュに藤丸よ。

妾とて居住まいを正すべき時というのは心得ておる。

ほれ、話はこやつを片付けてからじゃ。」

(戦闘後)

三蔵「んんー? どういうこと?

あなたの影みたいなのを倒したら謎の薬瓶がドロップしたんだけど……。」

武則天「ふむ。

これはやはりこうすべきであろう。」

マシュ「ま、待ってください武則天さん。

飲む気ですか? もう少し慎重に……!」

パラケルスス「——問題はないでしょう。」

「パラケルススさん? こんなところで何を!?」

パラケルスス「失礼ながら、後を付けさせていただきました。

尾行です。

いえ、契約には含まれていませんが、その霊薬の製作者として最後まで見届けねば、と……」

武則天「……この効能は、妾の思っているとおりのものか?

薬師よ。」

パラケルスス「はい。

記憶除去薬の中和剤・・・・・・・・・です。」

武則天「ふん、やはりな。では……。

……ふう。」

「あの……武則天ちゃん。そんなの飲んで大丈夫……?」

武則天「大丈夫に決まっておろうがー!

というかもうわかった。全て思い出した。

手紙の送り主は妾自身じゃ。」

「!!?」

武則天「筆跡でバレる故、妾は漢字が書けそうな者を雇い、さらには敵役としてエジプトの女王にも声をかけた。

そして全ての準備を済ませたあと、自らの記憶を消す薬をそこの薬師に作らせ飲み干した……。」

パラケルスス「はい、その通りです。

ピンポイントの記憶除去薬、そしてその効能をキャンセルし記憶を取り戻す薬——

すべて、彼女からの依頼によるものです。」

マシュ「ど、どうしてそんな事を!?」

武則天「それは……

いい加減克服せねばと思ったというか、こうでもせんと真面目に立ち向かわんと自分でも思ったというか……。」

三蔵「あー。

ひょっとして、幽霊嫌いを克服するためかしら?

だったらさっきの彼女が嬉しそうだった理由も分かるわね。

『王としての修行』とか『よりよい王になるための努力』とかいかにも彼女が好きそうな単語だもの。

もちろんあたしも修行&修行者は大好きよ!

だから褒めちゃう、めでたし!」

武則天「ええい、おまえに褒められたくてやったワケではない!

……とにかく、今回の出来事は女帝の気まぐれ遊びだったとでも思っておけ。

光栄じゃろう。

引っ張り回した事を謝罪なぞせんぞ!」

「幽霊嫌いが克服できたなら何よりです」

武則天「そうかそうか。

ま、これで妾はもはや何も怖いものなどない、ぱーふぇくと女帝になってしまったわけじゃし?

これは貴様たちにとっても実に思い出深い、まさに歴史的なイベントとして後世まで語り継がれ——」

三蔵「ん? 何かが上から……」

武則天「……………………。」

マシュ「フォウさん!? なぜここに!?」

パラケルスス「幽霊だけでは不充分なので……

超高級ペットフードを用いて彼も誘き出すつもりだ——

と、彼女は言っていましたね。

おそらく上の層に落とし穴でも仕掛けていたのでしょう。

しかしあの驚きよう。

記憶復元薬が不完全だったか、あるいは純粋に覚えていなかったのか。ふむ……」

マシュ「どちらにしても、フォウさんに立ち向かうだけの精神力は残っていなかったようです。」

「出ていっちゃったけど、大丈夫かな?」

エレシュキガル「ふう。

この暗さ、湿っぽさ、広さのわりに圧のある閉塞感……

なかなかの冥界っぽさなのだわ。

ガルラ霊たちの運動不足解消にはもってこいの場所ね。

さて。

たまには冥界の女主人として厳しく指導しておかないと、どうしても甘えとか馴れが——」

マシュ「遠くから武則天さんの悲鳴が……。」

三蔵「あ、あれ?

猫はともかく、幽霊はもう大丈夫になったんじゃないの?」

パラケルスス「先程の克己は、極限状態における生理活性物質の放出が引き起こした一時的なもの、という事でしょうね。

恐怖とは——容易には克服できないものです。

残念ながら。」

マシュ「ええと……

ひとまず、探してきましょうか?

武則天さんを放って帰るわけにもいきませんし。」

三蔵「あー、それ、あたしに任せちゃってくれない?

藤丸たちは先に帰っていいわよ。

道に迷える子を救う!

うんうん、まさしくこの高僧少女の役目だわ!」

「……じゃあ、お願いします」

三蔵「うん、まっかせてー!」

(帰還後)

三蔵「ぎゃてぇ……

ようやく帰ってこれたわ……。」

武則天「はぁはぁ。なぜじゃ。

なぜ今日のあの洞窟に限って、ダレイオス王が不死隊を呼んで無意味に暴れていたり、狼と首無し男が昼寝していたり、山の翁が曲がり角からヌッと出てきたりしたのか……

妾は雇っておらんぞ!」

三蔵「きっと御仏のお導きね!

わりとそういう、おかわり癖? 

みたいなのがあると思うわ!」

武則天「仏に頼んでもおらん!

まったく……。

……のう、話は変わるが。

二人きり故、聞いておきたい事がある。

玄奘三蔵。」

三蔵「ん、なになに?」

武則天「……おまえは。

おまえは、かつての妾の唐について、どう思う?

表向きは高宗が皇帝であった頃かもしれんが、同じ事じゃ。

いかに西方より持ち帰った経典に集中していたとはいえ、噂くらいは聞いておったであろう。」

三蔵「……そうね。

本当に風の噂程度だけど、あなたは民にひどいことをしていると聞いた気もするわ。

仏門に帰依した者としてはっきりと言います。

ひどいこと、悪いことをしてはいけません!

何故なら、それらはすべて自分に返るものだからです!」

武則天「…………。」

三蔵「——でも。

良いことをしようとして、なのに結果的に悪いことになっちゃった、って場合もあるわよね?

だって人間だもの。

うう……というか、あたしだって未熟な修行の身で、失敗ばかりだから……。

それが誰かの迷惑、誰かにとっての悪になってないとは言えないわけで……修行が足りないわけで……。」

武則天「……妾は、あれが正しいと信じた。

あれが、正しい国を作るための唯一の法だと信じた。

だから行ったのだ。

そこに決して嘘はない。

——仏にすら、誓えるぞ。」

三蔵「うん。

じゃあ……その先は、何も言わないことにしておくわ。

あなたが本当にあたしに聞きたいことは、あたしには答えられない。

あたしは唐の民である前に仏の弟子だから。

答えは御仏のみが知る、よ。」

武則天「ふん。

本当も何も、先程のはなんでもなーい気まぐれの問いかけで、それが全てじゃ。

何を望んでおるわけでもない。」

三蔵「そう? だったらそれでいいけど!

ただ——

ここに来た今でもいろんなことを考えて、いろんなことを思って。

自分らしく前に進もうとしているあなたの姿は、とても立派だと思うわ。

迷悟一如、これからもその調子で修行するといいんじゃないかしら!

あ、心配しないで!

本当に道を間違って見過ごせない感じになっちゃったら、今度はこのあたしが全身全霊で、御仏の正しい教えを叩き込んであげるから!」

武則天「……やれやれ。

高僧というのも面倒なものじゃな。

妾にはやはり生臭坊主ぐらいでちょうどよいわ。」