後悔はない /これは獣の本能だ 知恵が己を苛む /それは罪の概念で 仲間はいなくなった /最早獣ですらない

幕間の物語(男性鯖)

獣であることは、楽なのだと狼は考える。

獲物に喰いつけ。

敵対者には牙を剥け。

強者からは逃げろ。

臭いを覚えて、二度と近付くな。

けれど、群れを率いるともなるとそうもいかない。

考えなければいけなかった。

悩まなければいけなかった。

判断しなければならなかった。

この大地は俺のものだと、雄叫びをあげなければいけなかった。

部下がいて、妻がいて、子供がいた。

だから戦わなければいけなかった。

けれど、獣の知恵には限度があり、人の欲には際限がない。

——だからこの結末は必然で。

獣が恨む道理はない。

——そうして、獣は幻霊として召喚され、融合され、サーヴァントとなった。

かつて人に及ばなかった自分に、人智を凌駕する膂力が宿った。

復讐の権利を行使し、思う存分噛み砕いた。

後悔はない

  /これは獣の本能だ

知恵が己を苛む

  /それは罪の概念で

仲間はいなくなった

  /最早獣ですらない

首のない幽鬼が一人、そこに佇んでいた。

喋らず、語らず、動かない。

脅しても動じず、睨んでも効果がない。

何しろ頭部がないのだから、当然だろう。

人の形をしてはいるが、人からもっとも遠い存在だ。

だから耐えられるのだと、獣は思う。

あの二人も、臭いがないから耐えられた。

……そう。

人の臭いがしなければいい。

けれど、サーヴァントには人の臭いがある。

それがどうしても、耐えられない。

エルキドゥ「僕は白湯でいいよ。」

ナーサリー「もう、そんな野暮な飲み物は認めないわ。

砂糖たっぷり、ピリリとするジンジャーはお好みで。

マスターはどうするのかしら?」

「ノンシュガーで」

ナーサリー「ふふふ。

カロリーは大敵だものね!」

エルキドゥ「補給できるときにしておくべきでは?

君はマスターなんだから。」

ナーサリー「もう、野暮なこと言っちゃダメだわ、エルキドゥ。」

エルキドゥ「うん?

そうか、体調管理と食欲嗜好を並列に捉えるのは野暮なんだね。覚えておこう。」

(説明後)

エルキドゥ「……という訳で、僕たちが聞き出した事情はこんな感じだ。」

「そうか……」

エルキドゥ「正直、このままでも僕はいいと思うよ。

ロボは役に立つし、裏切る訳でもないのだから。」

ナーサリー「そうね、その通りね。

誰もが皆、事情を抱えてマスターと戦うわ。

人理を修復するという、共通の目的を抱いてね。

だから、仲良くなんてなる必要はない。

そういう見方もあると思うわ!

ええ、ええ。

でもね、でもね。

それはきっと、とてもとても。

悲しくて納得がいかないことなのよ・・・・・・・・・・・・・・・・。」

エルキドゥ「……道理は通っていても、理由は受け入れられない……という事かい?

そうだね。悲しいのは、よくないね。

今の僕なら少しだけ分かるな。

それで。マスター、どうする?」

——嗅ぎ慣れた匂いに身を起こす。

警戒と威嚇を籠めて、唸りを上げる。

それでも足音は変わらず、ただ真っ直ぐに。

そうして、獣は少年と向き合った。

「戦いについてきて欲しい」

その依頼を受諾する。

——敵意はない。悪意もない。

だが、己の内側を焼く炎こそが、我が力に他ならない。

目の前にいる存在マスターを肯定するということは、自身の復讐を否定すること。

だから吼え立てる。

威嚇し、警戒を促し、足を遠のかせる。

人と獣はわかり合えず、寄り添うことはできないのだから。