「幸い、まだPはAの事に気付いちゃいない。」「かろうじて、だ。我々と志を同じくするサーヴァントたちは意識的に口を噤んでくれている。」

幕間の物語(女性鯖)

〜 カルデアのはずれ 〜

???「——合言葉を。『A』」

「……何でしたっけ?」

???「おいおい頼むぜ。

まあ今の声でマスターだってのは分かったが、おまえさんが決めたんだろ?

こういうのをなぁなぁで済ませない意識こそが、安全対策って概念に一番大切な事なんだと思うね、オジサンは。」

マシュ「ごもっともです。

ええと、正解の合言葉は、確か……『P』でしたか。」

???「それそれ。いま開けるぜ。

会議中でもその符牒を使うのを忘れるなよ。」

マシュ「声をかけた皆さんは、既に全員到着されているようですね……。」

「遅れてすみません」

ヘクトール「いや、時間はピッタシだよ?

むしろ俺たちの集まりがよすぎるのさ。」

ダヴィンチ「なぁに、ちょうどいい機会だったからね。

何か手を打つ必要があるのかも、と私も思っていたところだよ。」

ホームズ「同感だが……教授にまで声をかける必要はあったのかね。」

モリアーティ「それだけマスター君が知恵を欲しているということサ。

善も悪も関係なく、とにかくこの件をどうにかできる人材を多角的に彼は求めているんだろう。

事態はそれほど逼迫ひっぱくしているという訳だ。

理論第一で、マスターの優しさ、その心の細やかさを察する事はできないのかな、名探偵サマは?」

ホームズ「やれやれ、悪の天才に人の心を説かれるとは。

……いいだろう。

確かに、これは心の問題でもある。

意見サンプルはそれこそ多いほどいいさ。」

ヘクトール「そうそう。

ここにいる以上、オジサンたちは同じ方向を向いてるってことだ。

仲良く頼んますよ、マジで。

さ、マスターとマシュも適当に座ってくれ。

対策会議・・・・を始めよう——」

ダヴィンチ「さて。

少なくともここにいるみんなは共通認識を持ってくれていると思うけれど——

このA氏とP氏・・・・・についての問題は、カルデア内の安全保障において見過ごすわけにはいかない要素だ。

まずは現状の報告からいこうか。」

ヘクトール「首の皮一枚で繋がってる、って感じだなあ。

幸い、まだPはAの事に気付いちゃいない。」

ホームズ「かろうじて、だ。

我々と志を同じくするサーヴァントたちは意識的に口を噤んでくれている。

そうでない愉快犯や破滅主義者は二人の関係を知らないか、あるいは今はその導火線にいつでも火を点けられる状態であるという事に気付いていない。

つまりはどちらも幸運が働いてくれている、と言える。

今のところはね。」

モリアーティ「だがしかし、それは言い換えれば——」

「時間の問題、ということですね」

マシュ「はい。

幸運によってのみ維持されている状況は、それが少し揺らいだだけで致命的な動きになりえます。

アキ……おほん、Aさんがカルデアに召喚された事にまだPさんが気付いていない今のうちに、何か対策を取るべきでしょう。

この会議の有用性を改めて再確認しています。

さすがは先輩です。」

ヘクトール「いやいや、何か手を思いつかなきゃ有用も何もないぜぇ。

オジサン、今までいろんな策を考えてきたけどねぇ。

こいつは解けない難問ですよどうも。

いやあ、ははは。

関係者じゃなきゃさっさとトンズラしたい気分。

ま、一人は俺が死んだ後の関係者で、もう一人は俺を殺した張本人だけどなー。

……む?

口にしてみると意外に何の義理もない?

逃げても許されるかね、これ?」

マシュ「複雑な関係性なのは理解していますが、お二人と最も近しい間柄なのがヘクトールさんなのは間違いがないのです。

カルデアの平和のために、どうかご協力ください。」

ヘクトール「ほいほい、冗談だよ。

逃げてる間に今の家が吹っ飛んじまうのはさすがに困る。」

ホームズ「関係性、か……

まずそこを再確認しておこう。

大前提にズレがないか確かめるのは重要な事だ。

それをもっともよく知るのは、言うまでもなく……

ミスター藤丸、キミだ。

主観でも構わない、二人と話していて感じた事を改めて我々に教えてくれないだろうか?

彼女が彼に対して何を思っているか。

彼は彼女に対してどう思っているか。」

「ええ。A氏と話したところによると……はい。P氏はどうやら……」

ダヴィンチ「ふむ。やはりね。

二人の関係性は前提からしてズレきっている。

藤丸君が感じているとおりだと思うよ。

バーサーカーとしての狂化と元々の精神性が入り混じっているせいで分かりにくいが、彼女は——

厳密に言えば、A氏をただ殺したいわけじゃない。

いや殺したいのは確かだろうけどね。

彼女は本質的には、屈辱の過去を清算したいと思っている。

すなわち、正々堂々、今度こそ『戦士として』彼と戦って倒したいと思っている……。」

ヘクトール「一方、ヤツのほうは『詫びのためには彼女に殺されてもいいが、死ぬとマスターの助けになれない。それは困る』

なーんてこと言ってたんだろ?

うん、有り体に言ってダメそうだ。

やはり逃げよう。

オジサンのスキルではムリ!」

マシュ「わたしの印象ですが……

今のところ、Aさんは意識的にPさんから距離を取っているように思えます。

カルデアの中でうっかり出会ってしまわないように最大限気をつけて行動している、と言いますか……。」

ヘクトール「逃げ回るのはオジサンの得意技なんだがねぇ。

ま、その行動はつまり、『ヤツは彼女と戦う気がない』ってコトを示している。

なぜか?

戦ったら殺しちまうからだ。

ごく普通に・・・・・ヤツはそれが当然の結末だと思ってやがるからだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

サーヴァントである彼女を殺したらマスターに不利益が出る。

だからヤツはそれをしない。

じゃあ次に、もしマスターがいなかったら、という仮定の話をすると、だ。」

ホームズ「殺されてもいいと自ら言っている以上、答えは明白だ。

その場合は『戦わずに殺される』という結末を迎えるだけだろうね。」

ヘクトール「そう——

結局、ヤツが彼女と戦う未来は訪れない。

彼女が一番求めているものを、ヤツは絶対に提供しない。」

ダヴィンチ「うーん、確かに致命的なズレだな、こりゃ。

彼はどうしようもなく誤解している。

単純に、彼女はただ殺された事を恨んでいるのだとね。」

マシュ「でしたら、それを教えてあげては……?」

ヘクトール「いやあ、第三者が口で伝えてどうにかなるとは思えないねぇ。

片やバーサーカー、片や英雄としての芯の強さには定評のある大英雄サマだよ?

自分ルールで動く頑固さとか言い換えてもいいけどね!

まあ、Aの方は説得なり洗脳なりするにしても、バーサーカーは難しいだろうなあ。」

モリアーティ「フフ、名探偵とヴィランの関係性のようなものかネ。

根本から、相容れないモノとして在る。

少なくとも、今このカルデアにいるライダーのA氏とバーサーカーのP氏に限ってはそうかもしれない。」

モリアーティ「おやおや、計算が趣味の教授が解を導くのを諦めるとはね。

特技欄に数学と書くのはもう止めにしたのかな。」

モリアーティ「ハハハ、円の周の長さに対する直径の比率のように、これは答えが出せないと認めるのも数学力だよ名探偵クン。

無理数の証明について今から講義を始めようかね?」

ダヴィンチ「無駄話は後で。

まったく、キミたちのようなライバル関係なら話は簡単だったんだが。

答えを出すのが難しいのは分かるが、それでも放置できないから我々がここに集まったんだろう?」

マシュ「そのとおりです。

このままでは、いずれお二人は出会ってしまうのでしょう。

そこで致命的な何かが起こってしまうのは確実です。

それは決して良い結末とは思えません。

ですから……できるかぎり、お二人の仲を緩和できればと……」

「うん。だから、お願いします。知恵を貸してください」

モリアーティ「……やれやれ。

そう素直に頭を下げられると悪だくみのし甲斐もなくなるというものだヨ。」

ホームズ「勿論、諦めたわけではないとも。

ここから我々が辿るべき真実を見定めていくとしよう。」

ヘクトール「ヨシ!

頼りになる二人がやる気になってくれたところで、オジサンはそろそろ……。」

ダヴィンチ「ダメ。」