俺の行動は悪であり、邪だったが。それでも——俺は、アキレウスとして。そう振る舞ったからな。無かったことにはしねえよ。

幕間の物語(女性鯖)

「(動きが……止まった)」

ペンテシレイア「これだけやって手応えがなければ、さすがの私も冷める。

……作り物なのだろう?

この戦場も。このアキレウスも。」

ヘクトール「ああ、そうだよ。

おまえさんの本当の大暴れは、押さえつけるじゃなく、その衝動を際限なく果たさせる事でしか解消されないだろうって名探偵さんたちの判断でね。だが……

このアキレウスもどき……

間違うものか。

本物と同じ匂いがする・・・・・・・・・・

力は及ぶべくもないが、性質自体は間違いなく同種のものだ。

すなわち——

総じて、この複製は精巧にすぎる。

奴自身が協力せねばここまでのものは作れまい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「(正解です。ダ・ヴィンチちゃんも頑張った特製ダミーです)」

ペンテシレイア「つまり——

やはり、奴は既にこのカルデアにいて!

しかも私に対するこの遊戯は、奴もそれを望んでいた、という事だッ!

自分で戦うのではなく! 紛い物に!

私の相手をさせようとなあぁぁぁぁぁぁッ!」

ヘクトール「うおおい、またかよ!?」

ヘクトール「あーよかった、さすがに燃え尽きた直後にゃエンジンの再稼働はできねえか。

賢者モード様々ってやつだな、うん。」

ペンテシレイア「ヘクトール。マスター。

今、ようやく分かった気がする。

奴には・・・——

そもそも・・・・私と戦う気がないのだな・・・・・・・・・・・。」

「…………」

ヘクトール「…………。」

ペンテシレイア「仮に、まっさらの状態で、今の私と今の奴が出会ったとしたら。

奴はおそらく、私を攻撃すまい。

激昂した私の殺意に身を委ねるだけだろう。

それは、つまり……ああ……

未だ、私に、『対峙する価値を見出していない』という事だ——」

ヘクトール「……理解しちまったか。

さて、これでどう変わるか。

所詮——

『アキレウスに殺された仲間』の俺が何を言おうが、死者のたわごとにしかならないのさ。

あいつと俺は半端に近すぎる。

だがマスター。

逆に何もかもが遠いおまえさんなら、何か届く言葉もあるのかもしれない。

だから、ま、頼むわ。」

「ペンテシレイア……」

「もっと強くなるしかないと思います」

ペンテシレイア「……ふ……くくく……。

単純だな、マスター。

だが——

アマゾネスの戦い方も生き方も、元より単純なもの。

前に進み、敵を倒す。それ以外にない。

特に私は女王だ。

今更何を変えられるというわけもなし、か……。

ああ、そうだ。

貴様の言うとおりだ。

それしかないのかもしれん。

レオンテウスの祖父、あのカイニスのように男になればよいのかとも思っていたが——

おそらく違う。意味はない。

結局、私にできるのは、奴が無視できないほどの問答無用なる強さを得る事のみだろう。

強さ、強さ、ああ、強さだ!

私という女の顔を、あのアキレウスの目から隠す兜はそれしかないのだ!

……そして、それを認める事すらも。

ここに至るまで目を背け続けてきた、持っていなくてはならない『強さ』の一つであった……。」

ヘクトール「(やれやれ。

一歩前に進んでくれた……って事かねぇ?

願わくば、これが落ち着きに繋がりますように、だ)」

ペンテシレイア「だからだ、ヘクトール。」

ヘクトール「へあっ!?

オ、オジサンがどうかしましたかねぇ?

私を手伝え。兜輝くヘクトール。

私は攻めは得意だが護りは弱い。

そこを鍛えた事などない。

それはつまり、そこに鍛える余地が——

強くなる余地があるという事だ。

貴様は逆だ。

護りに特化している。

トロイアを十年護り抜いた堅固の将。

故に、教えろ。

アマゾネスの流儀と矛盾しない限り、私は全てを取り入れる。

いや、むしろこちらの流儀に合わせる形で発展させればよいのだ。

敵を殺す攻めの護り・・・・・……ふむ、悪くない……。」

ヘクトール「マジかよ、なんか無茶な事言われてないか?

オジサン困っちまうぜ。

だがまあ……トロイアの尻ぬぐいをしてもらった借りはあるしな。

その利子としちゃあ充分だろう。

俺の戦法がおまえさんとは致命的に、まるっきり正反対なのは承知の上のようだし。

道具だけ与えて、使い方はそっちでアレンジしてもらうって感じがいいかもな。

特に得たいのはあいつへの有効打になる『強さ』だろ?

アキレウスを的確に怒らせる悪口の種類とかならいくらでもストックがあるから、まずはそいつを利用して……」

ペンテシレイア「アキ……レウス……?」

「おや? ペンテシレイアの様子が……」

ヘクトール「おいおい、まさか、まさかだよ?

今までくっちゃべってた時間で?

ものの数分で?

もう賢者モードが終わっちゃったわけじゃないですよねぇ?」

ペンテシレイア「アキレウスと! 言ったな!

そして匂いもする!

そこかしこからする!

すなわち……貴様は……」

ヘクトール「結局、こっちはあんまり変わってないってオチかよぉ!?

まあそうだよな、バーサーカーだもんな!」

(攻撃されるヘクトール)

ホームズ「いいや、きっと変わっているよ。

ただ、普段通りに燃え盛っている彼女の表面には出てこない、というだけでね。

彼女の温度はそれだけ苛烈なのさ。」

モリアーティ「だが彼女の霊基の奥底、存在の一片にでも油を注すことができたのなら意味はあった。

今は無意味な一注しかもしれないが、いずれそれが全体に染み渡る可能性もないとは言えないだろう。」

ダ・ヴィンチ「で——感想はどうなのかな?」

アキレウス「おっと。

この距離で気付かれてねえって事は、アンタらの目論見は上手くいってるんだろうな。

俺の傀儡があっちこっちで壊されすぎて、ここら一帯、俺の匂いが充満してる・・・・・・・・・・んだろ。

——だからアイツもここにいる俺の事に気付かない。」

ダ・ヴィンチ「ふふ。

キミの協力を得て作った特製ダミー、そのデコイ的効果について褒められるのは技術者として嬉しいが……

聞いた感想はそこじゃないよ、分かってるだろ?」

モリアーティ「バラバラ死体にはバラバラにされる理由がある。

それはただそれだけの話だネ。

重要なのは、悪役ヴィランと名探偵が同時にそのトリックを提案するほど——

君をこの場にいさせる事に価値があった、という点だ。」

ホームズ「最初に言ったとおりだよ。

双方の認識のズレがそもそもの原因なのだから、解決も双方から動くべきだ。

つまり、キミのほうも理解すべき何かがある。

これはそういう話さ。」

アキレウス「へいへい、わかりましたよ。

ったく。知将系はこれだから面倒臭い!

……なんとなくだが、理解はしたぜ。

アイツのあんな顔見ちゃあな。

理解しないわけにもいかねぇだろ。」

マシュ「では……!?

ええと、これからどうされるおつもりですか?」

アキレウス「どうもこうも。

あれが望んでいるのは、アイツを女と思わず、美しいとも麗しいとも思わずに戦えってことだろ?

そりゃ無理だ。」

マシュ「……!?」

アキレウス「カルデアに来てから喋ったわけじゃねぇが、ここでこうして見ただけで分かる。

あのペンテシレイアはあのとき・・・・より若い姿だが……それでも美しいことに違いはない。

こんな台詞を臆面もなく言ってっから今みてぇに面倒な状況に陥るんだろうな。

ああ、理解している。

それは……理解しているんだよ。」

モリアーティ「それは自嘲の笑いかな?

英雄色を好むという。

そこに重きを置いても私は不思議には思わないがネ。」

アキレウス「そういうんじゃねぇよ。

ただ——

俺はそう思っちまう。

だったらせめて、それに嘘はつかないようにしたい。」

ホームズ「かつてのトロイア戦争で彼女を倒した後、美しいと呟いたときと同じに、かね?」

アキレウス「おっと。

ストレートに来るな、探偵とやら!

……ま、そうなんだが。

だがな、一個だけ言わせろ。

いくら俺でも普通ならあんな事は言わない。当然だろ。」

ダ・ヴィンチ「ほう?」

アキレウス「意外そうにすんじゃねぇよ。

どんな強さであれ、戦った相手に対する礼儀は知ってる。

ケイローン先生からもそんぐらいは習ってた。

だが、それでも。

それでも——」

ペンテシレイア、か。

これほど深く兜を被って顔を隠していたんだ。

美しいという噂など、ただの幻想だろう。

——『   』——

ペンテシレイア「……けだもの・・・・め。

我が部下を討ち果たしても飽き足らず、私も辱めるのか?」

アキレウス「それでも——

口から漏れちまうものはある、って話さ。

あのときのペンテシレイアは、それほどまでに……。」

マシュ「アキレウスさん……」

アキレウス「後悔していないといえば嘘になるが。

だが、もうやってしまったことをやり直すことはできない。

そしてやり直そうとも思わない。

俺の行動は悪であり、邪だったが。

それでも——

俺は、アキレウスとして。

そう振る舞ったからな。

無かったことにはしねえよ。」

マシュ「それは……

哀しい事では、ありませんか……?」

アキレウス「どこまで行っても、俺たちは敵同士だ。

それでいい。

そうじゃなきゃ出会えなかった・・・・・・・・・・・・・・。」

マシュ「——。」

モリアーティ「良い出来事も悪い出来事も。

生前に強く刻まれたものほど……

それは決して否定できない、『我々』というものを形作る重要な構成要素だ。

私もできるなら誰かと滝壺に落ちた事など汚点として消し去りたいが、そういうわけにもいかないんだよネ。」

ホームズ「『彼女が美しかった事』『美しい彼女を見た事』は……

それほどまでに、キミという存在の奥底に影響を残した記憶だという事なのだね。」

アキレウス「……自分の行為を肯定する気は微塵もない。

アイツが俺を呪ったのも当然だ。

きっついがしょうがねぇ。

しかしまぁ、そういうのを全部含めても——

『アイツと出会わない俺』よりは。

『あのとき兜の下にあった、女神以上に美しいアイツの顔を見ていない俺』よりは……

『狂うほど憎まれてる今の俺』のほうがマシだってことさ。」

ペンテシレイア「ハッ!?

今、誰かが『美しい』と言った気がするぞぉぉォォ!!」

ヘクトール「おいおい。

あの野郎、わかっててこっちに嫌がらせしてんじゃないなあ?

いや、無意識だ。無意識だろうね。

そこが最悪なんだけど、あの男は!」