貴方も夜釣りなど、なさいますか? トリスタン卿などは何とも器用にフェイルノートを操って釣り上げてみせるのですが。

幕間の物語(男性鯖)

ベディ「…………ひとつ、思い付いた事があります。

マスター。

本来であれば口にするのは憚られるのですが……

他でもない、貴方のためであれば、彼もきっと喜ぶはず……。

いえ、喜ぶに違いない。

彼はそういう心根の騎士です。

事後承諾にはなってしまいますが、不肖ベディヴィエール、必ずや了承をもぎ取りましょう。」

「彼? 騎士ってことはもしかして」

ベディ「はい。実は……

我が同胞、自由人の如きサー・トリスタンが暇を見つけては入り浸っている場所があるのです。

私も時折、誘われるままに同行しているのですが、息抜きには適しているものと思います。

他の方々にはどうかご内密に——」

「どこだろう。レクリエーションルーム?」

ベディ「ふふ。

さて、何処だと思われますか?

早速現地を参りましょう。

トリスタン卿には私から書面を残しておきます。

いざ。出発です!」

「海——屋外じゃなくて、シミュレーターなんだね」

ベディ「……思いの外、ローテンションですね……

申し訳ありません……

期待を煽りすぎてしまいました……

ベティヴィエール、反省いたします。

お察しの通り、シミュレーターによる疑似体験です。

実際にカルデアの外に出た訳ではありません。

それでも一定の安らぎは得られるものです。

……ええ、本当に。

私自身、この行為に如何なる意味があるのかは懐疑的であったのです。当初は。

トリスタン卿の、特に意味不明、特に翻訳難解な独白に付き合い、彼の釣り様をぼんやりと眺めながら……

特に何をするでもなく、ただ、空と海を前にしながら時間を過ごす。

これが何とも……

意外に、心やすらぐと言いますか、落ち着くのです。

一度、貴方にも、私が得たものと同じ感覚を味わっていただきたいと思い——

…………ご迷惑、だったでしょうか。」

「一緒にのんびりしよう、ベディヴィエール」

ベディ「ありがとうございます、マスター。

では……如何でしょう。

貴方も夜釣りなど、なさいますか?

トリスタン卿などは、何とも器用にフェイルノートを操って釣り上げてみせるのですが。」

「事前にデータで用意しなきゃいけないんだっけ?」

ベディ「ご心配なく。

ダ・ヴィンチ殿にお願いしてありますから。

確か、多目的ウィンドゥを開いて……

エクストラアイテムを装備。

これで問題ありません。

……いえ、他にも何かしら方法はあるとは思うのですが、シミュレーターにはそこまで慣れていないので……。

荊軻殿などは慣れてらっしゃるようで、酒類等の嗜好品を持ち込む事もあると聞いていますが、今回はこのやり方でいきましょう。

どうぞ、マスター。

餌は既に針につけてありますので、こう、勢いよく。

海の遠方へ向けて。

ええ——」

「でりゃああッ!」

ベディ「何と勇壮かつ大胆な……!

凄い……!

お見事です。

もしやマスター、経験者ですか?

ここからは、さあ、いよいよです。

いえ。

特に何をするでもありません。

空と海の境目も定かでない夜、潮騒を耳にしながら、どうか気を楽に。

焦り、逸る気持ちは必要ありません。

どうか穏やかに過ごしてください。

針は、私が観察しておきます。

ご心配なさらず。

「ベディヴィエール、何か話して」

ベディ「…………いけません、マスター。

今は無心。無心です。

東洋の思想にあるような究極的な心持ちとまでは申しません。

ただ、気を楽に。

穏やかに。のんびりと。

海と空のつなぎ目がぼやけるさまを目にしながら、夜という微睡みに包まれて……。

……日々の疲れを癒してください。

!! 

引いています!

ばしゃばしゃです!

これは……相当の大物とみました……!

魚と共に泳ぐケイ卿の如しです!

いや、これはそれ以上かもですね……!

ここまで大きな反応はそうありません!

レッドスナッパー、マカレル、或いはツナか!

釣り上げてしまいましょう、マスター。

ぜひ!

釣果ちょうかを魚拓なりのデータに落とし込んでマシュさんやトリスタン卿に披露すれば、ええ!

きっと、ふたりの喜ぶ顔を見られるでしょう!」

「よーし、やるぞ! フィーッシュ!」

ベディ「!!

見事です……!

釣り針に食い付いた魚が、空中に……!

………………あれは——

浜辺に釣り上げた魚が——

いえ、魚ではなく——

「エネミーだこれ!」

ベディ「……お恥ずかしい……。

私がシミュレーターの設定を誤ってしまった、としか。

慣れない事はするものではないですね……

徹夜でマニュアルとにらめっこをしていたのですが……

新しい事を覚えるのはやはり苦手で……

いえ、いまは弱音を吐いている場合ではなかった!

マスター、どうか指示を!

この不始末の償い、いいえ、罰は如何なる形でも。

ですが先ずはこのエネミーデータを——

(再臨するベディヴィエール)

我が銀腕アガートラムにかけて、ただちに排除します!」

「当然! やるぞ、ベディヴィエール!」