「父上。あの…母となれるのですか、私は…?」「莫迦を申すな、貴様は源氏の棟梁なれば男であろう。故に父になることのみを許す。」

幕間の物語(女性鯖)

源満仲「頼光。頼光よ。」

源満仲「なに。

近々、子を考えねばならぬと思ってな。

貴様も良い年の頃合いだ。」

頼光「子、ですか?

私には既に金時がおりますが……。」

源満仲「あれも所詮は化生、鬼のなり損ないであろう。

未だ幼き我が子、頼明を貴様の養子とする。

頼貞もだ。

貴様が子を産み落とすことは断じて許さぬ。」

頼光「……承りましてございます。父上。

母となれるのならば、私は……どのような形でも……。」

源満仲「否。

貴様は源氏の棟梁なれば男子であるからには、父になることのみを許す。」

源頼光「…………は。

承りましてございます。」

私は、父?

私は、男?

私は、いいえ、私は、私は、母であるはず——

頼光「は。如何なる勤めにございましょうか、父上。」

源満仲「なに。近々、子を考えねばならぬと思ってな。

……道長公と晴明殿にそろそろであろうと言われてな。」

頼光「子、ですか?

私には既に金時がおりますが……。」

源満仲「ふむ。成る程。その手があるか——

魔性に魔性を掛け合わせるのも面白きことやもしれぬ。」

頼光「……父上?」

源満仲「いや。いや。忘れよ。

そうとも、あれには坂田姓を既に与えてあるのだ。

血筋正しき男子を選び、貴様の相手とする。

疾く子を成せ。

次代の源氏を担うべき子を成すのだ。」

頼光「父上。

あの……母となれるのですか、私は……?」

源満仲「莫迦を申すな、貴様は源氏の棟梁なれば男であろう。

故に父になることのみを許す。」

頼光「し、しかしお待ちください。

子は一人では成せませぬ。

お相手などはいかように……」

源満仲「無論、子を成すための道具に過ぎぬ。

成した後には疾く頸を刎ねよ。

子ひとり毎に男の頸ひとつ、総じて十の頸を刎ねよ。

棟梁なれば一子で済む訳もなく、十はおらねばならぬ故に。

貴様に人の情などあるまいが……

目を背けたくば四天王を使っても構わん。

是は情けである。急げよ。」

頼光「…………は。

承りましてございます、父上。」

どうして?

どうしてなのです?

私は、母であるはずなのに——

頼光「は。如何なる勤めにございましょうか、父上。」

源満仲「なに。

近々、子を考えねばならぬと思ってな。

……さる御方の知恵だが、貴様の子について妙案がある。」

頼光「子、ですか?

私には既に金時がおりますが……。」

源満仲「ふふ、そうだ。

それよ。足柄山の異形の子——

精強に育ちはしたが、あの髪色。あの瞳。やはり異形よ。

異形と異形。

貴様には相応しかろう。

人ならざるものどもを掛け合わせ、我が源氏にすさまじきものの血を混ぜるのだ。

未来永劫、武の頂きに我ら源氏が座すこととなろう。

たとえ摂津の大具足を失う日が来ようとも、人と赤龍と鬼神の裔はあらゆる戦に勝つだろう。

故に頼光。

疾く、金時との子を成せ。」

頼光「父上。

あの……母となれるのですか、私は……?」

源満仲「莫迦を申すな、貴様は源氏の棟梁なれば男であろう。

故に父になることのみを許す。」

頼光「……はい。」

源満仲「総じて十の子を成すがよい。

棟梁なれば一子で済む訳もなく、十はおらねばならぬ故に。

十の子を成したその時には——

金時の頸を刎ねよ。

異形の血は我が源氏にのみ留め置かねばならぬ。」

頼光「…………は。

承りましてございます、父上。」

おかしい。

おかしい。おかしい。

おかしいおかしいおかしい。

私は、母では、ないの……?

頼光「は。如何なる勤めにございましょうか、父上。」

源満仲「なに。

近々、子を考えねばならぬと思ってな。

貴様も良い年の頃合いだ。」

頼光「子、ですか?

私には既に金時がおりますが……。」

源満仲「……ああ、そうだったな。

そうであった。うむ。」

頼光「父上?」

源満仲「佳い。

貴様は何も考えず、何も案ずることなく、ただ源氏の棟梁としてその太刀を振るっていればよい。

他のすべては是より先も私と頼親よりちかが取り仕切る。

何も、貴様は案ずるな。」

頼光「…………は。

承りましてございます、父上。」

……私は……

……私は……

……私は……

……わ た し は……

私は 何だ?

私は 子を成したのか?

私は 子を成せなかったのか?

分からない。分からない。

私は何だ?

私は、戦う者です。

私は何だ?

私は、殺す者です。

ああ、そう——そうだ。

そうだった。それでいい。

私にはそれだけで良いのです。

他には何も要らぬのです。

父上。そうなのですよね?

忘れませぬ。

頼光は、源氏の者として誅伐に励むのみ。

そうでなくてはならない。

頼光は、他の何者でもあってはならない。