わたしの愛する人たちを奪った人々、国、世界。 そんなもの! 砕け散れ、記録も記憶も悉く消え失せろ! ギロチンの刃の重みさえ生ぬるい!

幕間の物語(女性鯖)

マリー「と言っても、まだあなたたちは眠っているの。

正しく言えばわたしもそうね。

あなたたちの肉体は微睡みの中にあって、でも、意識だけはこうしてわたしと一緒にいる。

だから、ドクターの声は届かない。

カルデアとは通じていない。

ここまで言えば、もう、きっとおわかりいただけるかしら。」

マシュ「夢の、中に……?

サーヴァントとマスターは眠りの夢の中で記憶を共有することがある、と記憶にはあります。

ですが、こうして……。

互いの意識を認識するというのは——」

マリー「カルデアの召喚システムというのは、通常の召喚のそれとは少し違っているようだから。

こういうことも、あるのでしょうね。

もしくは。

本当に意識があるのは『自分』だけで、他の誰かは、ただの夢の登場人物なのかも。」

「ってことは、つまり——」

マシュ「胡蝶の夢、ですね。」

マリー「どうかしら。

どちらが主で、どちらが夢かはわからない。

でもね、理解できることもあるの。

わたしには。

ここは……。

わたしの歩むべき場所だということ。」

マシュ「歩むべき、場所。」

マリー「ここはわたしのタンプルなの。

もちろん、本物のそれではないけれど。」

マシュ「タンプルの塔——

マリー・アントワネットが最期の時を待った場所。

では、あなたの心象風景なのですね。

この空間、いえ、場所は。」

マリー「わたしにとってはね。

あなたたちには、どう見えているのかしら。

わたしの記憶が伝わっているなら、わたしの記憶通り。

そうでなければ、自分の記憶の中で最も近いものが、見えているのかもしれないわ。

ふふ、怖がらないでね?

大丈夫。

わたしが、ちゃんと案内してあげる。出口まで。

それはすなわち、脱出する必要がある、ということですね。

ええ。——ごめんなさい。

ここは、わたしの記憶。

わたしのいつかの心。

囚われて、出られない。

死を待つ世界。

でも、あなたたちには違うのだから、きっと外へ出してあげる。」

「一緒に行こう」

マリー「……ええ。

さあ、行きましょう。

外へ。あなたたちの本当の世界まで。」

マシュ「……迷宮、ですね。

ですが、迷っているという感覚は薄い。

これはあなたが?」

マリー「ええ。

あなたたちがいるから。

わたしひとりなら、出られるのかどうか。

ここはわたしの悲嘆と嘆きの記憶。

でも、あなたたちがいてくれる。

既に死んで、英霊として在るわたしとの繋がり。

だからわたしは見失わないわ。

ちゃんと、出口まで——」

マシュ「……待ってください。

前方に複数の気配があります。

魔力反応、というか、通常の生体に感じるものではない気配です。

……夢の中で、魔力を感じるのかどうかは不明ですが。」

マリー「かつてのわたしが感じたものね。

それは、恐怖。死。

それにやっぱり、悲しさね。

……大丈夫。

勝てるわ。」

「戦闘態勢だ、マシュ」

マシュ「はい、マスター。

——敵性体への迎撃に入ります!」

(戦闘後)

マシュ「……撃破しました!

召喚システムが機能して何よりでした。

先輩の存在に深く結び付いているため、でしょうか。」

マリー「ふう。

ちゃんと、大丈夫だったわね。

ええ、絶対に負けない。

だって、わたしは確かに悲しみはしたけれど、絶望だけはしなかったのだから。

わたしが死しても、王たる夫が死しても。

愛する子供たちが死したとしても。」

マシュ「マリーさん——」

マリー「王家の白百合を人々が忘れても、それでも、フランスは永遠に在り続けるのよ。

そう、信じたの。

そう、これはフランスに必要な事柄だったのだって。

だから。

わたしは諦める・・・ことだけはしなかった。

かたちがどんなに変わっても、フランスは永遠。

栄光の白百合は潰えたりしない。」

マリー「ヴィヴ・ラ・フランス!

わたしたちのフランスに、栄光を!」

マリー「あなたのそれは欺瞞に過ぎない。

愚かな民草に殺された愚かな王妃の、愚かな嘘。

愛しい人を殺されて、愛しい子らを殺されて、なあに?

ヴィヴ・ラ・フランス?

とんだ虚勢だわ。

言ってしまいなさいよ、ねえ?

王家の白百合を踏みにじった愚かな民なんて、みんな、みんな、フランスごと消えてなくなれって。」

マシュ「これは……。

サーヴァント反応、いえ——」

「もうひとりのマリーさんか、シャドウサーヴァント?」

マシュ「気配はほとんど同一のものです。

ここが本当の夢の中だとしたら、つまり……」

マリー「ええ、そう。

マシュの言う通り。

どちらも本物。

どちらもわたしよ。

わたしは、諦めなかったわたしマリー

あの子は、諦めてしまったわたしマリー

悔やまないと決めたわたしマリー

悔やみ、怒り、呪いを撒こうとするわたしマリー

どちらも……わたしなの。

偽物ではないわ。」

マリー?「いいえ、いいえ。

あなたは偽物なのよ、マリー。

わたしこそがマリー・アントワネット。

民を救おうと心を砕き、けれど裏切られた愚かな王妃!

フランスに呪いを!

千年の飢えと千年の戦乱を!

無限の革命の果て——

終わることなき回転悲劇の果てに滅び去ってしまえ!」

マシュ「……特殊な空間のため、でしょうか。

彼女の怒りが伝わってきます。

燃え盛るように激しく、そして、切り裂くように鋭い、感情の奔流。

こんなものを抱えながら……。

彼女は、いつも、わたしたちに微笑んで——」

マリー「無様なものね、わたし・・・

微笑みを忘れて、愛を忘れてどうするの?

どれだけ傷付いても、憎まれても、微笑みは絶やしてはならない。

それが王妃たる者の務めでしょう?

たとえ、その最期がどうあったとしても——

ねえ、華やかでいましょう?

微笑みましょう、すべての人へ。国へ。世界へ。

それが、お母さまの元を離れ、フランスの白百合として生きると決めたわたしマリー

だから……。

あなたの在り方は、認めてあげない。」

マリー?「言ったものね、マリー・アントワネット!

なら、ここであなたを屈服させて、わたしが立つ!

世界の焼却? いいじゃない!

させておけばいいのよ!

わたしとわたしの愛する人たちを奪った人々、国、世界。

そんなもの!

砕け散れ、記録も記憶も悉く消え失せろ!

ギロチンの刃の重みさえ生ぬるい!」

マリー「——もう、聞いていられないわ。

あなたの叫びは、わたしの叫び。

でも、そんなものは聞きたくないから。

……さあ、藤丸。

わたしに言って頂戴。

わたしのマスター・・・・。」

「……倒して、進もう!」

マリー「ウィ。

——やりましょう、マシュ。」

マシュ「はい、マリーさん!

マスター、行きます——

対サーヴァント戦闘です!」

(戦闘後)

マリー?「……ふうん、そう。

あなたはそれでいいのね。

人々から、あれだけの裏切りをその身に受けておいて。

それでもあなたは微笑むの。

そう……。

……やっぱり、それでこそ、わたしよね。

ヴィヴ・ラ・フランス。

出口は、もう、すぐそこよ……。」

(消滅する音)

マシュ「……敵性サーヴァント、消滅しました。

戦闘終了です。」

マリー「ありがとう、ふたりとも。

妙なものに巻き込んでしまって、ごめんなさい。

でも、少しだけほっとしているの。

微笑む以外のわたしを、あなたたちに見せられて。

隠し事はこれでさっぱり消えたから、ふふ、あとはもう、思い切り微笑んで、愛しむだけね。」

「……ヴィヴ・ラ・フランス、王妃さま」

マリー「ええ、フランスに栄光をヴィヴ・ラ・フランス

さあ、行きましょうふたりとも。

もしも、目が覚めた後に——

この夢のことを、もしも覚えていたとしても。

きっと、ドクターやフォウには内緒にしてね?

約束よ?

あのふたりには、できれば、微笑むわたしだけを見せてあげたいと思うの。」

マシュ「……はい、マリーさん。」

マリー「ふふ♪ お願いね?」