丑御前と名付けられた娘は、生まれ落ちた時から牙が生え、髪は長く、両眼は朝日のように輝いていました。いわゆる鬼子ですね。

幕間の物語(女性鯖)

頼光「…………まだ、起きていらっしゃいますか?

ああ、良かった。

すみません。

金時を寝かしつけるのに時間がかかって。

頼むから出ていってくれなどと言うものだから、悲しくなってしまって……涙がこぼれそうでしたが……

実際、ちょっとこぼれましたが……

最後には、あの子も母の想いをわかってくれました。

きっといい子になってくれるでしょう。」

「それは良かった。それじゃあ、おやすみなさい」

頼光「いいえ?

うふふ、まだ来たばかりではありませんか。

そのまま、寝床で横になっていて構いません。

私はこれこのように……

はい、枕元に腰掛けますから。

ああ……

こうして寝かしつけるのは初めてになりますね?

子供の時分、金時にもこうしてあげていたものです。

遠く懐かしい思い出のはずが、ふふふ、またこうして。

みなさんの成長を見守る年長者の本懐というもの。

いえ、今宵はお説教のためのものではありますが。

決して私、やんちゃな振る舞いを叱り付けたいのではないのです。

わかって下さいね。

貴方たちの行いを、振る舞いを、いつも案じている誰かが必ずいるのです。

それを知って欲しいのです。

貴方を想う誰かを、どうか悲しませないで。」

「マシュやDr.ロマンや、サーヴァントたち?」

頼光「ふふふ……

——そうだ。昔話を、しましょうか。

やんちゃなのは構わない。

元気が有り余ってしまうのだって、愛おしいものです。

けれども、自分自身以外が目に入らなくなって、他を慮る事なく振る舞ってしまえば……

きっと誰かが悲しむのです。

時には血を流させてしまう事にもなるでしょう。

そう、むかしむかし……

ひとりの娘がいました。

北野天神、牛頭天王の申し子として生まれた娘です。

母の胎に三年三月の間留まった後、丑の年、丑の日、丑の刻に生まれた娘。

丑御前と名付けられた娘は、生まれ落ちた時から牙が生え、髪は長く、両眼は朝日のように輝いていました。

いわゆる鬼子ですね。

都に、鬼の子が生まれてしまった。」

「鬼子?」

頼光「常ならざる生まれ方をした子を、古くはそう呼んだものです。

人ではない。鬼の子である。

娘を殺すように、娘の父である武士は命じましたが……

母はそれを憐れみ、遠く大和国の寺に娘を預けました。

密かに育てられた娘は、人よりもはるかに逞しく、神の如き力のあるモノとなりました。

当然ですね。

娘を孕んだ折に母の夢にあらわれた北野天神が示すように、半神だったのですから。

娘は、何も知らずに育ちました。

父の名も、父が都で高名な武家の棟梁である事さえも。

そして十五歳になった頃、都からの遣いが寺にやって来ました。

遣いは言いました。

父が、娘の帰参を望んでいると。

娘は喜び、都へと戻りました。

……そして、新たな名前を与えられた。」

源満仲「貴様は我が源氏の長子である。

ゆえに、相応しき甲冑と得物をさずけたが——

家名に恥じぬ働きをせよ。

都に逆らう賊、まつろわぬものども悉く誅伐せよ。

働き次第で、いずれ貴様は源氏の棟梁ともなろう。」

頼光「迷わず誅伐執行いたします。

ご命令とあれば、私は鬼にもなりましょう。」

源満仲「鬼ではない。

貴様は我が子であり、人の子であり、誉れある源氏の血脈を継ぐ長子である。

源頼光、それが貴様の新たなる名だ。

ゆめゆめ忘れるな。」

頼光「忘れませぬ。

頼光わたしは、源氏の者として誅伐に励むのみ!」

頼光「……娘は、多くの敵を屠りました。

人も、人ならざるものも。

怪力乱神の戦いぶりでそれは多くの斬り捨てました。

本当に、たくさん。殺しました。

返り血を浴びずに日暮れを迎えた事はないほどに。

殺して、殺して、殺して、殺して、殺し続けて——

父の言葉に従い続けました。

いずれ、源氏の棟梁となるために。

そして、戦いの中で、いつしか……

気付けば、信頼できる仲間たちが隣にいました。

弟にも等しい、愛しき家族も。」

「頼光四天王!」

頼光「……………………。

仲間。家族。それらは本当に……

無二の、かけがえのないモノであったはずです。

けれど……

ある日、娘はこう思ったのでした。

いかに戦功をあげようとも、それにどんな意味がある。

すべて無駄ではないのか。

仲間は讃えてくれる。

教え子も、まばゆい笑顔を見せてくれる。

けれど。

ひとたび鬼子として生まれた我が身は……

真に、源氏の棟梁たりえるのだろうか。

真に、受け入れて貰えるのか?

父に、源氏の家中に、都に生きるあまたの人々に。

人間たち・・・・に——」

「それは……」

頼光「…………恐かったのでしょうね。

誰より強かったのに。

……娘は、決断しました。

今こそ父の期待にこたえようと。

まつろわぬものを誅伐する日々からいよいよ脱し、歴史の表舞台へと出るのだ、と。

そのためには……自分自身を殺すしかない。

自らにそなわった魔性、異形の側面を、かつての名前と共に切り離そうとしたのです。」

「————丑御前」

頼光「……はい。」