儂にとって必要な強さは頂点ではない。…牙を抜かれた狼のような言い分だが、呵々。槍のヤツには辿り着けぬ領分よ。

幕間の物語(男性鯖)

そも、人が魔に勝つことは難しい。

神に勝てるかどうかは疑わしい。

しかし、サーヴァントとして召喚されればそのような嘆きを聞いてはいられない。

繩鋸木断じょうきょぼくだん水滴石穿すいてきせきせん

縄とて大木を断ち切り、滴とて岩石を穿つ。

つまるところ、人の歩みとは、そういうものなのだ。

胤舜「なるほどなるほど。

老書文殿はそのようにお考えか。

槍の書文殿とはまた一味違いますな。」

李書文「おや、もしや儂が迷惑でもかけたか?

……ははぁ、真剣勝負を挑んだな。」

胤舜「律していたつもりでしたが、鍛錬の内に興が乗ってしまいましてな。

拙僧もまだまだ青い。

儂の不徳として謝るというのも筋が違うか。

しかし、宝蔵院よ。

お主ほどの気概と徳があれば、振り払うこともできたろう。

サーヴァントとは、そういうものでは?」

胤舜「いやいや。

これがなかなかどうして。

拙僧は六十になるまで生き延びました。

その過去は記憶……いや、記録している。

しかし、その老いたときの精神性はない。

殺し合いを厭うのではなく、ともすれば血気に逸る。」

「危うく刃傷沙汰にんじょうざただったんだけどね!」

胤舜「いやはや、相済まぬマスター。

わかってはいたのだが、つい、な。

そういえば、書文殿はまだ若い頃の自分に会っていないのかな?」

李書文「ああ、会っておらん。

もし会えば、間違いなく殺し合いだろうからな。

向こうもそれが分かっているのだろう。

一度として顔を突き合わせた事はない。」

胤舜「なぜ殺し合いに?

老いた自分を見たくなどない、というような……?」

李書文「ではない。逆だ。

生涯をかけて練り上げた答えがあるのだ。

老いた己と戦いたい、と思うのは当然よ。

己の究極。あるいは結末。

それと出遭った時に手を出さぬ理由が、若造である李書文にはなかろうて。」

胤舜「ふむ。まったく同感ですな。

何しろ自分との戦いなど、サーヴァント以外では不可能だ。

まして熟達した自分がいるなら、今の自分と未来の自分——

どちらが強いか。

比べてみたくもなりましょう。」

李書文「で、あろうなあ。」

「どちらが強いの?」

李書文「若い儂はこう答えるだろう。

自分ランサーだと。

そして儂も答える。

相手ランサーの方が強かろう、とな。

——だが。

そう、だがな。

勝つのは儂よ・・・・・・

その事実が厳然としてある限りは、儂は若い頃の自分と戦おうとは思わんね。

……ま、そのことを理解した後でなら喜んで戦ってもいいのだが。」

胤舜「……ほう。ほほう。」

「え、どういうこと?」

李書文「強者であるか否かと、勝者であるかどうかは別ということだ。

儂にとって必要な強さは頂点ではない。

……牙を抜かれた狼のような言い分だが、呵々。

槍のヤツには辿り着けぬ領分よ。

いや、辿り着けたのならそれはそれで良い。

そうすれば、この勝負はやはり儂の勝ちとなる。」

「言っている意味がよくわからないよ?」

李書文「フッ……。

坊が気に病むことではない。

マスターならば、道を歩むことだけを考えればいい。

ふむ。

納得いかぬようであれば、少しばかり昔話をしてやろう。」