サライが来たのはそういう意味でもあるんだろう。悪魔が、死の予兆を持ってきたってね。…折角だから、少年期や少女期の姿にしようかな。

幕間の物語(男性鯖)

マシュ「目標地点は16世紀ヨーロッパ。

正確には、西暦1524年のミラノ郊外となります。

分類的には微小特異点です。

恐らく、小型の聖杯、ないしその欠片が存在するかと。

……ダ・ヴィンチちゃんの指示通りの場所ですね。

管制室のシステムがシバを通じて観測する前に、ぴったり言い当てるなんて——」

ホームズ「折角だからフロイト式の夢判断でも試してみようかと思っていたが、必要なかったらしい。

実に大したものだ。

流石はダ・ヴィンチ。

カルデアのマスターの……

夢の精度、というものもあるのかもしれないが。」

マシュ「レイシフト開始します。

どうかお気を付けて、先輩!」

「いってきます!」

(レイシフト後)

ダ・ヴィンチ「やあやあ、久しぶりの懐かしのミラノ公国!」

フォウ「フォウフォウ、パスタフォーウ!」

ダ・ヴィンチ「おや、フォウ。

いつの間に紛れ込んできたんだか。

マシュのそばにいなくていいのかい?」

フォウ「フォウ。フォウ。」

ダ・ヴィンチ「よしよし。

キミも綺麗なお姉さんが好きか、そうかそうか。

奇遇だねぇ私もなんだよ、よしよし。」

マシュ「レイシフト成功ですね。

座標、都市ミラノ東部あたりと推測されます。」

ダ・ヴィンチ「とはいえこのあたりの郊外はあんまり覚えがないなあ。

私が移住した頃の公国でもないしね。

あの頃はひとまず平穏ではあったけど、フランスやヴェネチアの脅威に晒されていたっけ。

人々は穏やかだったものの、町の空気はどこか張り詰めていたよ。

私は有力者のイル・モーロ氏に気に入られてね、リラを聞かせたりしたものだけど——」

「音楽でも天才とは……」

ダ・ヴィンチ「前にも言っただろう?

私が生まれながらに有する才能は分野ひとつに留まらない。

絵画、彫刻、建築、兵器、木工、解剖、自然科学……

当然、音楽だって含まれるんだぜ。

さあて。

気の向くままに歩いてみよう——

かと思ったけれど、やれやれ。

レイシフトの精度がどうやら今回はすこぶる良いらしい。

いるなぁ。

分かり易いくらいにうようよ・・・・してる。

日暮れになるまで待ってくれてもいいのになぁ。

(エネミーの声)

ほらね!」

フォウ「ファーウ!

ファウ、キャーウ!!」

マシュ「敵性反応です!

多数の敵性存在を確認。

聖杯の反応もその中にあります!」

ダ・ヴィンチ「じゃあ、やるとしようか。

もちろん私は戦闘についても天才だ。

任せておきたまえ!」

「お手並み拝見!」

マシュ「——来ます!」

ダ・ヴィンチ「悪魔いっぱい。

あーわかりやすいなー。」

(戦闘後)

ダ・ヴィンチ「一通りは片付けたけど——」

フォウ「フォ? フォウ、フォウフォウ。」

ダ・ヴィンチ「ああ、まだだ。まだいる。

いや……

親玉っていう風に捉えた方がいいのかな。

魔力も随分高い。

サーヴァントという訳ではないけれど、ここまで高い魔力を持っているからには、聖杯の欠片なりを取り込んでしまっているんだろう。」

マシュ「ダ・ヴィンチちゃんの言う通り、高い魔力反応です!

おそらく小型の聖杯か、欠片を所持している個体と思われます。」

ダ・ヴィンチ「そうだろうなあ。

いや、如何にもな姿に成り果ててしまったものだ。

なあ、小悪魔サライ——」

「サライ?」

ホームズ「ジャン・ジャコモ・カプロッティ。

少年期、生前のダ・ヴィンチに拾われたという人物だ。

西暦1490年のミラノでダ・ヴィンチの弟子となり、家族のように過ごしたと記録されている。」

マシュ「家族……」

ホームズ「成る程。

没年は1524年であるというからには、微小聖杯の影響下で彼はここミラノで亡霊ゴーストと化して、微小特異点を発生させたというあたりだろう。

今回のダ・ヴィンチの直感、正解だったという訳だね。」

ダ・ヴィンチ「私と縁のあるサライが欠片を持っていたものだから、巡り巡ってマスターの夢に影響が出た——

そんなあたりかな?

まさしく、予感的中だった訳だ。

まあ、さして嬉しい話でもないけど……

サライ。

私に嫌がらせをしてくるのはおまえくらいのものだよ。

しかし……

なんでまた亡霊なのかねえ?

まあ、座に刻まれる英霊というには如何にも頼りないし、生前あれこれ悪さの癖が抜けなかったおまえだから、座にいたとしても反英雄の端っこの更に端に引っ掛かるかどうか、ぐらいだろうけど。」

「そんなに……悪い少年だったのか……」

ダ・ヴィンチ「美しい少年だったよ。

実に可愛らしかった!

思えば、くるくるの巻き毛が実によかった。

私ほどではなくても、まるで天使みたいな美少年だったとも。」

フォウ「フォウフォウ、ダ・フォーウ……」

マシュ「(まずは美少年談義から!

さ、流石ですダ・ヴィンチちゃん——)」

ダ・ヴィンチ「でも、まー、ねー。

そりゃあもう悪ガキだった。

人の4倍は悪かった。

勝手に私の靴を売ってお菓子買うし、銀の筆盗むし……

ともかく何でもかんでも盗むし……

食事中にガンガン瓶を割るし……

……ああ、思い出すと腹が立ってきたぞ。

サライ。

おまえのような悪童が——

ミケランジェロの時とそっくり同じにさ迷う霊となって親方マエストロの前に顕れるっていうのは、うん!

——割とイラッとするものだ! サライ!

(戦闘後)

マシュ「……敵性反応、消滅。

プログラムに従って聖杯の欠片を自動回収します。」

フォウ「フォーウ……」

ダ・ヴィンチ「回収完了っと。

これでよし。

やれやれ……サライの奴め……。

私の死後5年くらいに死んだと聞いてはいたけど、せっかくの若く瑞々しい命を早々に散らせるなんて。

腹立たしいことこの上ない。

聖杯の影響で亡霊になって暴れるなんていうのは運が悪かったとしか言いようがないけれど、早死にはだめだろう。まったく。

…………最後の最後まで親方マエストロ不孝な子だよ、おまえは。」

「ダ・ヴィンチちゃん——もっと、ちゃんとした形で話したかった?」

ダ・ヴィンチ「いやあ、どうかな?

暴走するタイプの亡霊じゃなかったとしても……

むしろ、その方がサライは奔放な悪さをしたと思うよ。

そういう意味じゃあ、今回のような在り方で出逢えて我々は幸運だったのさ。」

「……………………」

ダ・ヴィンチ「暗い顔をしない!

私がいいと言っているんだから、それでいいのさ!

でも、そういう、感じやすいキミは好きだぜ。

いつまでもその瑞々しさを忘れずにいてくれると嬉しい。」

フォウ「フォウ、ファーウ!」

ダ・ヴィンチ「さあて!

それじゃあカルデアに帰還するとしよう!

今夜はぐっすりと眠れると思うよ、マスター。

妙な夢を見ることもないだろうからね。」

——ねえ、なぜなんです?

——お母さんの時にはちゃんと葬儀を執り行ったのに。

——今回は、どうして何もしないんですか?

——あっはっは。親方マエストロったらもう。

——だから未練が残るんですよ・・・・・・・・・・・・、莫迦だなぁ!

ダ・ヴィンチ「うん。

そんな風に言っているように思えたよ、サライは。

実際は何も言っちゃいないけどね。

だから、思っただけ。感じただけ。

推測でも予測でもない、ただの直感さ。

いつだって、誰も遠慮して言わないようなことをさらりと言うんだ。

あの小悪魔はさ。

でもね。

葬儀をやっていなくても、私はきちんとキミを見送れた・・・・・・・と思っているんだ。

独りよがりかもしれないけどね。

さて……

それじゃあ、そろそろ準備をしておくとしよう。

準備。予備と言った方がいいのかな?

そう。

私の番がいつ来るか分かったものじゃないし、いざという時に慌てなくてもいいようにね。

サライが来たのはそういう意味でもあるんだろう。

悪魔が、死の予兆を持ってきたってね。

…………。

……折角だから、少年期や少女期の姿にしようかな。

ホームズは恐らく勘付いているんだろうけど——

まあ、文句は言わないし邪魔もしないだろう。

実際、今回もしっかり付き合ってくれたし、余計な事は言わなかった。

あれは見せないなぁ腹の内を。

…………もしもキミがいたら、文句を言うかな?

言うんだろうな。

でも、まあ。許してくれよ。

私は、幾度も幸運に恵まれた。

前の人生でもそうだし、今の人生でも。

その代償として……

二度目の生の最期がそこそこキツくなったとしても、まあ、それはそれで——

仕方ないかな、って思っているのさ。」