相手を斃しながら生かす…矛盾した言葉だと思っていたが、なるほど。強さというものは、単純に敵を倒せばいいというものではないらしい。

幕間の物語(女性鯖)

???「お待たせしたね。

最後の相手はこの私、マスク・ド・バリツだ。」

「あの仮面……どこまで流通しているんだ……」

コアトル「オー、覆面レスラーもルチャ・リブレの華、三番勝負を締めくくるのに相応しい相手デース。」

マスク・ド・バリツ「既に観察は済んだ。

今のあなたは連戦で満身創痍。

そしてスタミナも尽きかけている。

私はフェアを心がけているが、常にフェアではない。

戦う時は、私が一方的に有利な時だけだ。」

「さすがバリツ仮面。スマートだ」

バリツ仮面「ああ。

ちなみに私の使うバリツは打・投・極、全局面対応型護身術とでも呼ぶべき代物。

万に一つも勝ち目はないが、棄権するかな?

心遣いは不要よ、バリツ仮面。

ルチャドーラは怪我や疲労なんて当たり前、むしろ今がベストコンディションデース。」

バリツ仮面「その仮面を待っていたよ。

最後の勝負を始めよう、ミス・ケツァル・コアトル。

しかし……

なぜマスターといい君といい、私を正しいリングネームで呼ばないのかな?」

(戦闘後)

コアトル「隙ありよ、バリツ君!」

バリツ仮面「フッ……それはどうかな?

(そしてなぜリングネームで呼ばないのかな?)」

バリツ仮面「腕を極めさせてもらった。

ギブアップしたまえ。

失礼ながら、あなたの勝てる材料は何一つない。」

コアトル「……ルチャ・リブレにはどうして派手な技が多いか、分かりますか?」

バリツ仮面「さあ……考えたこともない。

まあ、見てくれだけの非効率な技とは思うが。」

コアトル「ノー!

それは喜んでくれる観客と、共に信頼しあう対戦相手のためデース!

戦いに効率を求めるのなら、アナタは戦場にでも行きなさーい!

声援もない、ライトもない、そんなさみしい戦場にね!」

バリツ仮面「声援?

それがそんなに重要なファクターなのかい?」

コアトル「もちろん!

だからマスター——私に声援を下さい!」

行けオーレ! ルチャ・マスター!」

コアトル「ムーチョ!

お陰で百人力デース!

——とうっ!」

バリツ仮面「跳んで拘束を外すとは……

驚くべき痛覚遮断だ。

いや、これがレスラーの『忍耐』というヤツか?

いや、感心している場合ではなかった!

くっ、バランスが! あと仮面が!」

コアトル「残念、はずれやすい覆面マスカラとか論外デース!

レスラーならファッションにはもっと気を遣いなさい!

行くわよ〜、竜巻式脇固めラ・ミスティカーーー!」

バリツ仮面「(なんだこの技は……!?

私は何をされている!?

回転……回転しているのか? ホントに?

だが、なぜここまでの回転を?

六回転もすれば三半規管は乱れ、受け身は困難になる。

なのにまだ回るというのか……?

これは……宇宙? 宇宙が見える……

今朝はまだ服薬していない筈だがいやそうではなく。)

(これは——考察せずとも分かる!

率直に言って、私はとてもひどい事になる!)

トントン。」

マシュ「ホームズさんがタップしました!

ケツァル・コアトル、ドロップは中止です!

ケツァル・コアトルさんの勝利です!」

コアトル「おっとっと。

なら脳天落としはキャンセルね。」

バリツ仮面「……ふう。

なんとか頚椎粉砕は免れたか。」

コアトル「ええ。

タップがとても早かったから間に合ったのよ?

それと、私の技の精度にも感謝なさい。

普通、あそこまでいったら止められないんだから。」

バリツ仮面「だろうね。

私も助かった事に驚いている。

技をかけた筋力より、止めた筋力の方が怖ろしい。」

コアトル「当然よ。

言ったでしょう、ルチャドーラは互いの体を想って技をかけるの。

技の停止ができるかどうかは最低限のマナーよ。

でも、アナタはまだ戦えたんじゃないかしら?」

バリツ仮面「勿論、そのつもりだった。

だが身体が勝手に降参した。」

「どういうこと?」

バリツ仮面「不思議な技だった。

あれほど激しかったのに、同時に胸が高鳴っていた。

これはひどい……そして面白い、とね。

そう思った瞬間、身体が反射的にタップしてしまった。

害意のある技には屈しない自信はあるが、こうも優しいと護身術は反応してくれないようだ。」

コアトル「ふふ、それは買い被りネー。

痛くするだけの余力がなかっただけです。」

バリツ仮面「見せかけの技と言ったのは訂正しよう。

東洋には活殺剣というものがある。

相手を斃しながら生かす。

……矛盾した言葉だと思っていたが、なるほど。

強さというものは、単純に敵を倒せばいいというものではないらしい。」

コアトル「ええ。

アナタの技も強かったわ、バリツ仮面。

でも骨はもろそうだから、栄養をしっかりね?」

バリツ仮面「参考資料としてとどめておこう。

……決して私が使うことはない技術体系だが、ルチャマスターのあなたには敬意を表したい。

アディオス、ミス・ケツァル・コアトル。

機会があればいずれまた。

しかし、なぜみな私のリングネームを誤認しているのか?」

コアトル「ふう、これが終わりですか……。」

「こんなにボロボロになって……」

コアトル「あら、心配してくれるのかしら?

大丈夫、今とってもいい気分だから。

心地よい疲労感と、身体で通じ合えた満足感……。

この気持ち良さを知ってしまったから、私はいま、こうしてアナタと笑い合えているのです。

命を奪う戦いの神ではなく。

明日を楽しみにできる、知恵と豊穣の女神として。」

「わかった。またやろうね」

コアトル「……ふふ。

グラシアス、マスター。

はあー、もう起き上がる元気もないデース。

マスター、手を貸して下サーイ!」

マシュ「ケツァル・コアトルさんもご満足されたようですね。

これで先輩も平和な午後の訓練に——

はっ!?

いけません先輩、ケツァル・コアトルさんはまだ……!」

「ぐわぁあああーー!?」

コアトル「ハーイ、引っかかりましたー!

私はまだまだ元気デース!

そして関節技ジャーべは奥深いのデース。

もがくほどに絡まる技を堪能してね♡」

マシュ「……こんなことなら五番勝負にするべきでしたね。

そして、なぜ鎖が必要なのかも分かりました……

ケツァル・コアトルさんを繋ぎ止めるには、本当に沢山の鎖が必要なんですね……」

コアトル「イエース!

あれっぽっちの鎖じゃとても足りまセーン!

さあ、マスター。もがいてもがいて。

ムーチョムーチョ!」