私は意味のない嘘はつかない。だって嘘であっても真実を示してしまうからね。だから、まったく根拠のない方便を使う時は、たいてい他人のフォローの時だけなのさ。

幕間の物語(男性鯖)

マシュ「——レイシフト、成功です。先輩。

十九世紀ロンドン、既に時代の修正が始まりつつある第四の特異点です。

霧は立ち込めていますが通常のモノです。

魔霧ではないですから、もう一般市民の方々も安全ですね!」

「人はいるのかな?」

ロマニ「だんだん戻っていくはずだよ?

いずれ、人と馬車が行き交う有名な光景が戻って来る。

キミたちが成し遂げたのは、そういうモノだ。

いずれは全ての特異点をそう修正しなくちゃね。

……まぁ特異点へのレイシフトも異常の修正も前例がない訳だからあれこれ懸念がなくもないんだけど、それはそれ。

いずれハッキリする事もあるだろうし、今はそういうモチベーションでやってこう!」

マシュ「了解です、ドクター。」

フォウ「フォウ、フォウフォウ。」

マシュ「あ、フォウさん今回も……!

いつのまに!」

ロマニ「と、ちらっといい話をしたところで、おーいもしもし?

聞こえているかなダ・ヴィンチちゃん?

今回は存在証明やシバの仰角調整はしなくてもいいのかーい?

というかボクとスタッフに任せちゃって本当にいいのかーい?

戻ってきてもいいんだぞー!」

ダ・ヴィンチ「あはははは、もうバレてたか。

それはそうだよね!

そんな顔しなくても大丈夫だとも、Dr.ロマン。

とっくに修正の終わった特異点だし、それになにより、ここは現代にかなり近い時代だ。

十九世紀だぜ?

異常が消えてる以上、存在証明の難易度は低下してるさ。

それはそうなんだろうけどね!

振り返ったらキミの姿がどこにもなかった時の、ボクたちの驚きと凍り付いた時間を想像してくれないかな。

え、技術顧問アイツったら勝手に何してんの?

遊んでいるの? と思い至ったコンマ五秒をさ!」

ダ・ヴィンチ「なに、もしもの為のトレーニングだよ。

何が不在の時がきてもいいようにね。

さて。懐かしのロンドンだ。

邪魔っけな魔霧も消えてくれてるし、どうかな——

ってな〜んだ、まだ少ししか戻ってないじゃないか。残念だなぁ。

それに、レイシフト先も何?

ソーホーだなんて。

これじゃあ遊べないじゃないか!」

ロマニ「(え、嘘だろ。

まさかダメ出しなのかいそれ!?)」

ダ・ヴィンチ「…………ハイドパークエリア、行きたかったなぁ。

着飾った淑女に混ざって百貨店でお買い物しつつ、クラブに顔を出して紳士同士の社交なんかしちゃってさ?

貴族レベルとまでは行かないけど、思い切り羽を伸ばしてみたかったのになぁ。」

「なるほど紳士としても遊べる……」

マシュ「流石のダ・ヴィンチちゃんです先輩!

息抜き気分のレイシフトな上に性別を超越しています!」

ロマニ「はい冷静にぃー。

藤丸君、マシュ。

キミたちまでそこの変態に飲まれないでくれ。」

マシュ「そ、そうでした。

あ、あの……ダ・ヴィンチちゃん!

今回レイシフトをした理由は観光ではなく……」

「ダ・ヴィンチちゃんが知ってないとは思えない」

ダ・ヴィンチ「やるじゃないか藤丸。

そろそろ、この私の事が分かって来たみたいだね?

大丈夫、もちろん私は承知しているよ。

小規模な異常がこの第四特異点で発生してる、ってね。

大体の目星も付けている。

目指すべきはリージェントパークエリア、大英博物館!」

「でも大英博物館は確か……」

マシュ「はい、先輩……」

ダ・ヴィンチ「そもそも異常を観測したのだってこの私だよ?

で、まあ、多少引っ掛かる事があってね。

正しく自分で確認しておきたいから同行したのさ。

観光気分がメインな訳じゃないとも。

私は意味のない嘘はつかない。

だって嘘であっても真実を示してしまうからね。

だから、まったく根拠のない方便を使う時は、たいてい他人のフォローの時だけなのさ。

だろ、ロマニ?」

ロマニ「う、む……。

そう言われると、ボクとしてはこれ以上追求はできないな……」

フォウ「ンキュ、フォーウ!」

ダ・ヴィンチ「おっと、そこはかとなく批評されている気がするぞぅ。

やだなフォウ君、綺麗なお姉さんを疑っちゃ駄目だよ。」

ロマニ「……はあ。

堂々と自分を『綺麗なお姉さん』と言う図太さは流石だと思うけど。」

マシュ「はい。流石です!」

「うるわしのモナ・リザだもんね……」

ダ・ヴィンチ「ふふ、そういうコトさ!

今の私は正真正銘100パーセントのモナ・リザだよ。

ならば私の微笑みは世界最高の微笑みさ。そうだろ?」

フォウ「フォウ、キューウ……」

ダ・ヴィンチ「とはいえ——

うん、今はあんまり微笑めないねぇ。

せめてウェストミンスターあたりに出てくれればナショナルギャラリーくらいには立ち寄れたのになぁ。」

「確かええと……」

マシュ「はい、先輩。

トラファルガー・スクエアに面した美術館の事かと。」

ダ・ヴィンチ「そ。

あそこにね、私の作品も展示されてるらしくてね。

それにさ?

私がモデルになってる作品もある。」

フォウ「フォウ、フォーウ。」

マシュ「………………。」

「ぼうっとしてるけど、どうかした?」

マシュ「あ……すみません、マスター。

ダ・ヴィンチちゃんの言葉の意味を考えてしまって。

自分が直接手掛けたモノや、自分がモデルとなって形作られたモノが長く残る……

美術館や博物館に残されて、訪れる人たちから感嘆や賞賛を受け続ける……

きっと長い時間……

多くの人に見つめられ、想われていく……

——それは、とても素敵な事だと思ったんです。」

フォウ「フォウフォウ、ファーウ……」

ロマニ「うん。

文化系サーヴァントならではと言える。

多くの英雄たちは戦いの結果を逸話や伝説として残すけど、作品を世界に残すとなれば話は別だ。

その点——

レオナルド・ダ・ヴィンチは多くのものを残している。

万能の天才と呼ばれたのは伊達でも幻想でもない。

れっきとした事実であり、いま以て世に伝えられる“万能の天才”の代表だ。」

ダ・ヴィンチ「ふふん。

もっと褒めてもいいんだぜロマニ?

そう、私は便利で綺麗なお姉さん以前に天才なんだ。」

ロマニ「綺麗なお姉さん、は余計だけどね。

ところで、ナショナルギャラリーにあるキミの作品って、絵だよね?」

ダ・ヴィンチ「うん。壁画。

何? 

ふふふ、謎の暗号——とかだと思った?」

ロマニ「いや、そういう訳じゃなくてね。

そうだと面白いなーとかちょっとだけ思ったけど、ちょっとだから。うん。

モデルをした方の作品はどうなんだい?

そっちも絵かな。肖像画とか?」

フォウ「フォーウ!」

ダ・ヴィンチ「違うよ。

私の絵画の先生であるヴェロッキオ師がね、私をモデルにして伝説の存在・・・・・を描いたんだ。」

マシュ「伝説……

一体どんな題材なんですか?」

「ダ・ヴィンチちゃんをモデルにした存在……」

ダ・ヴィンチ「んー大天使ラファエル。」

ロマニ「!!」

フォウ「フォーウ!」

マシュ「え……! 大天使ラファエル……!

た、確か、男性としてよく描かれる天使ですよね!?

女性として描かれるのであれば、同じ大天使でもガブリエルになるのではないでしょうか!

あ、でも確かに……

男性の頃のダ・ヴィンチちゃんがモデルであれば……」

ダ・ヴィンチ「当時の私がどちら・・・だったのかはともかく——

ヴェロッキオ師は私をモデルにして天使を描いた。

でも、どこをモデルにするかは人それぞれだろ。」

フォウ「フォウー……。」

マシュ「……つまり、ダ・ヴィンチちゃんを天使として描いたのではなく、ダ・ヴィンチちゃんの在り方をモデルにして天使を描いた……という事でしょうか?」

「だとしても男前すぎない? 魂だ」

ダ・ヴィンチ「あははは。

藤丸もマシュもロマニも、それぞれ面白い反応をありがとう。

ま。私はどんな姿であれすっごい美しかったからね。

大天使であろうとドンと来いさ!」

「ダ・ヴィンチの肖像画というと確か、割とおじいちゃんだったような?」

ダ・ヴィンチ「ああ、そっか。

お爺ちゃんな自画像で覚えちゃってるのかな?

まあ、否定はしない。

勿論アレも間違いなく私の姿のひとつではあるんだからね。

でもね。いいかい?

姿を変える事なんて服を着替える・・・・・・のと同じなんだぜ。」

ロマニ「……サラッと言うけど共感しにくいなぁ……!」

ダ・ヴィンチ「ふふ、そうかい?」