私ばかりを架空の存在と思うのは筋が違う。記録ではない伝説や物語というのは—— 多くの場合、人が生み出したお話であるはずだろう?

幕間の物語(男性鯖)

マシュ「ところで……

気になっている点があるのですが……。」

マシュ「シャーロック・ホームズ——

世界最高の名探偵にして、唯一の顧問探偵であった人物。

お尋ねしてもよろしいでしょうか。

時折、頭の片隅で考えていたことでもあって。

ミスター・シャーロック・ホームズ。

あなたは……実際のところはどちら・・・なのですか?」

ホームズ「どちら、とは?」

マシュ「ええと……。

何をわたしが尋ねたいのか、なんてミスター・ホームズには既にお分かりかと思います。」

ホームズ「確かに。

だが、今回ばかりは言葉にしてもらおう。

ミス・キリエライトでなくとも構わない。

——マスター。

キミも、同じ疑問を抱いているね?」

「ホームズは過去に実在したの?」

マシュ「それです!

わたしもそれが気になってしまって……。

初めてお会いした時には『あの名探偵は実在した!』と驚いて、すっかりそのままの認識でいました。

ですが、実際のところはどうなのか……

一度もミスター自身の口からお聞きしていないんです。

さらに言うと、架空の存在であると仄めかすようなご発言も聞いたことがあるようなないような……?」

ホームズ「ああ。なるほど。

いつか尋ねられると思っていたので驚きはないが、そうだね。

ソレはもっともな質問だと言える。

しかしミス・キリエライト。藤丸君。

いざ尋ねるとなれば些か面倒になるが構わないかな?」

ホームズ「ヘラクレスや魔女メディアをはじめとするギリシャ神話の英雄、インド神話のカルナやアルジュナ、ケルトの勇士にアーサー王伝説の騎士、シャルルマーニュ。

伝説のパラディン、巨人殺しのベオウルフ、土蜘蛛退治の頼光四天王、等々数多くの伝承や伝説で長らく語られてきた英雄や英傑たち——

仮に私をサー・アーサー・コナン・ドイルの創作だと規定すれば、彼らもまた創作されたモノと言えまいかな?

私はドイルの著作と同年代の人間ではあるが、伝説の英雄の殆どは、歴史を遡って・・・・・・形作られたものだ。

たとえばジークフリートは『5世紀頃を舞台とした』古エッダが起源だが、その成立は8世紀以降であるはず。

カルナにアルジュナならば紀元前4世紀から紀元4世紀に成立したという『紀元前5000年を舞台とする』伝説だ。

かのミスター・ゴールデン、坂田金時でいえばその勇猛な逸話の多くは江戸時代以降の講談で作られた。

彼以外にも日本の平安時代の英雄であれば、江戸時代初期の講談で伝承が付与される例は数多い。」

「実際に過去の世界には彼らがいて……後世に伝説として語られた、とか……」

ホームズ「ああ、そうだね。

そうかもしれない。

ではこの私・・・は?」

「あっ、そうか」

ホームズ「気付いてくれたかな?

過去の英雄たちと私に何の違いがあるだろう?

そう、概ね同じなのさ。」

「でも実在したって証拠がないような……?」

ホームズ「証拠か、ふむ。なるほど。

私の実在を示す物的証拠は歴史上存在しない、と。

確かに、ベーカー街221Bには私の部屋があったという公文書なりの記録はないね。

…………ないという事になっている。」

マシュ「実際には実在する……

そういうお話なんでしょうか?

私についてはそう言ってしまえばいいんだろうが、敢えてここは話をかき混ぜてしまうとしよう。

私以外の英雄たちを考えてみたまえ。

文化人類学的、考古学的に神話の英雄の実在が証明される事例はほぼない。

遺骨もDNAも出てこない。

神話や伝説の英雄の墳墓とされるような場面でも、決定的な証拠などは存在しないものさ。

数少ない例外がトロイア戦争だ。

シュリーマンは見事にトロイア戦争が過去の事実である証拠を発見したが、彼の大発見以前には、イーリアスの記述は伝説であり架空と思われてきたんだ。

他の英雄たちもそうさ。

彼らの多くは架空の伝説の登場人物だろう?」

マシュ「実在したという明確な証拠がないのは、他の英霊たちも同じ——」

ホームズ「その通り。

私ばかりを架空の存在と思うのは筋が違う。

記録ではない伝説や物語というのは——

多くの場合、人が生み出した・・・・・・・お話であるはずだろう?

世界は平面ではなく球に近く、ギリシャ神話の中で語られるように巨人アトラスが背負っている訳ではない。

夜は地球の自転が生み出す現象であり、ニュクス神の館云々ではない。

邪竜ファヴニールが五世紀に存在したという記録もなく、アーサー王伝説でさえ後年にサー・マロリーが編み上げる。

すなわち、この世界というモノは——」

「ん? 話がちょっとズレたような……?」